恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 先ほどの唯人さんの様子から察するに、この件は彼もまだ知らないのではないだろうか。
 もし耳に入っているなら、私になにかしら伝えるはずだ。

「きっと、おばさんの策略だ」

 健吾さんが言った“おばさん”とは、唯人さんのお母様だ。
 彼本人の気持ちなど元々無視だったので、結麻さんとの結婚を勝手に押し進めている状況かもしれない。

「俺が今から唯人と話してくるから」

「はい。でしたら、私は大丈夫だと伝えてもらえれば……」

「わかった」

 最後は健吾さんらしい笑みを浮かべ、ひとりで副社長室へと向かっていった。

「海老原さん、嫌なことを聞かせてしまってごめんね」

 秋本さんが目に涙を溜めながら私に頭を下げてくる。

「違いますよ、秋本さん。謝るのは私のほうです! 気を使わせてしまってすみません」

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