恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 彼女が胸を痛める姿に、なんて心の綺麗な人なのだろうと感服した。
 健吾さんはきっと、秋本さんのそういう部分に他の女性との違いを感じて、惹かれているのだと思う。
 私がもし男性なら絶対に秋本さんを選ぶと声を大にして言える。

「やはり恋愛は厄介ですね」

「……え?」

「辛かったり、面倒なことがあるなら辞めればいいのに、気がついたら簡単には引けないところまで来ていて……。あきらめたくない、とか欲が出ちゃってます」

 冷静沈着な私が、感情優先になって振り回されている。恋は頭で考えてするものではない。
 私はそれを苦手だと自覚していたから、今まで上手に避けて通ってきたのだろう。

「あきらめる必要なんか微塵もないわよ! 大丈夫。副社長は海老原さんを愛してるわ」

 秋本さんは希望を持てる言葉をかけてくれたけれど、気持ちだけではどうにもできないこともあると思う。

 もし唯人さんの心が折れて、お母様の要望通りに結麻さんと結婚したら、私とお腹の子はどうなるのか……。そんな不安がよぎってしまう。

 唯人さんが妊娠した私をバッサリ切り捨てるような非情な仕打ちをする人ではないと信じているけれど、家や会社の事情を()んで、すべてを受け入れてしまう可能性もゼロとは言えない気がする。

< 121 / 139 >

この作品をシェア

pagetop