恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「莉佐、妊娠したのか?」

「……たぶん。まだ病院で診てもらったわけではないんですけど、検査薬では陽性でした」

 唯人さんがどんな反応を見せるのか不安だったけれど、私の妊娠を知った彼の顔は、驚きと笑みが共存する複雑な表情だった。
 よろこんでくれている彼とは裏腹に、お母様は目を伏せつつ左手で頭を抱えていて、社長はそんなお母様を静かに見守っていた。

 微妙な空気が漂う中、私は唯人さんに手を引かれて柔らかいソファーの上に腰を下ろす。すると少しずつ吐き気がおさまってきた。

雅美(まさみ)、なんて顔をしているんだ。俺たちの孫が生まれてくるんだぞ? うれしいじゃないか」

「なにを言ってるの?! どうするのよこれ……」

 慰めるように社長が声をかけても、お母様は(なげ)くように言葉を吐きだすだけだった。
 この現実を受け入れられないのだろう。息子の結婚について必死に考えてきたからこそ、きっとショックも大きいのだ。
 そう考えたら、お母様に対して本当に申し訳ない気持ちが湧いてくる。

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