恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「恋愛しようがしまいが、人それぞれだよな」

 私に対してフォローしてくれたのか、副社長が微妙な笑みをたたえてつぶやく。そして健吾さんには「お前はあちこちの女の子を惑わせすぎなんだよ」と意見していた。

「で、唯人の彼女はどんな子? いつの間にできたんだよ」

 健吾さんが質問するターゲットが私から副社長に移り、ホッと胸をなでおろすのと同時に、副社長の恋人には実は興味はある。単純にどんな人なのか。

「莉佐ちゃん残念だったね。もうちょっと早く唯人の秘書になれてたら、チャンスがあったかもしれないのに」

「いえ、私なんてとんでもない」

 首を横に振りながら、縮こまるように視線を下げた。
 健吾さんは冗談で言ったに違いないが、私にチャンスなどあろうはずがないし、恋愛未経験な私がそれを考えるなんてありえない。

 私は秘書だから、毎日の仕事で否が応でも副社長と接する環境にある。その副社長が嫌な人ではないだけで十分だ。

「“私なんて”ってうつむかなくても、海老原さんは美人で清楚だよ」

 その声は健吾さんではなく副社長のもので。
 パッと顔を上げれば副社長の綺麗な瞳と視線が合い、ドキンと大きく心臓が跳ねた。

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