恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「……ありがとう、ございます」

 私より副社長のほうがどう見ても綺麗な顔をしている。そんな眉目秀麗(びもくしゅうれい)な人からお世辞でも美人だと言われ、私は恐縮してしまった。

「彼女ができたのに新人秘書を口説くとは、唯人って悪いやつだな」

「人聞きの悪いこと言うなよ! 口説いてないし、彼女もできてないから」

 副社長の言葉を耳にした健吾さんが、ポカンとした顔のまま固まった。
 プレゼントを贈る相手は、恋人ではないのだろうか。
 話の流れで健吾さんが勝手にそう判断しただけで、早とちりしたのかもしれない。

「付き合ってないのか?」

「ああ。恋人でも友達でもないな。少し前に知り合った、ただの“知り合い”だ」

「だから口説くためにプレゼントを?」

 見当外れだ、とでも言いたげに副社長は「それも違う」と眉根を寄せるが、健吾さんの探求心はおさまらない。

 しかしこのふたりのやり取りはまるで漫才の掛け合いのようで、そばで聞いているととても楽しい。そして仲がいいのがよくわかる。

「出会いはどこで?」

「どこって……道ばた?」

「は?」

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