恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「ほ、ほんと、綺麗な方……ですね」

 私はそのアイコンを見た瞬間、自分でも驚くほどの動揺が走って制御不能になり、思わず声が上ずってしまった。
 なんとか愛想笑いの笑みを浮かべようと努めても、顔が引きつってうまくいかない。

「どうかした?」

 様子がおかしいと気づいたのか、副社長が私の顔をうかがうように覗きこんできたけれど、私はうつむきながら首を横に振る。

「いえ、なんでもないです。このピアスはどうですか? シンプルですけど、どんな服装にも合いそうですよ?」

 私はショーケースのピアスを指差し、副社長と健吾さんの視線をそちらに誘導する。自分が挙動不審なのを悟られないためだ。

 平静を装ってピアスの話をしてみたが、私の目はきっと泳いでいただろう。
 この場から離れて、早くひとりになりたい。心臓が痛いくらいにドキドキとして壊れそうだから。


 副社長のスマホの画面に映し出された女性は、私の知る人物だった。

 だけどこのとき、副社長にはそれを正直に言えなくて、知らないふりをしてしまった。

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