恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 “社長の奥様”とは、副社長のお母様にあたる方だ。
 どうやら副社長には将来結婚する候補の女性がすでに居るらしい。遠くない日に婚約などの発表があるのだろうか。
 それならば副社長のそばに他の女性を近寄らせたくないのは、余計に納得がいく。

蔵前 結麻(くらまえ ゆま)さんという人でね、お父様がフィットネスクラブの会社を経営されているそうだ」

「良いご縁があるのですね」

「とにかく社長の奥様が乗り気みたいだよ。うちの会社的にもそのほうがいいんだろう」

 副社長がこの件を了承しているのだとしたら、ピアスをプレゼントした女性とはどういう関係になっているのか気になってしまう。
 まさかだけど、結婚後はほかの女性とデートなどできないからその前にちょっと遊んでおこう、とか?
 いや、毎日副社長と接している私から見て、さすがにそれはないと思う。

 一瞬、“政略結婚”という言葉が頭をよぎった。もしかしたらこれはお母様に無理に進められている話ではないのか、と。

 ピアスの女性がいることは告げ口をするようで気が引けるし、詳細を尋ねられても答えられないので部長には黙っておくことにした。

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