恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 私が気になったのは副社長の生活に関してであり、きちんと食事をしているかどうかを母親のように心配したからではないのだけれど。
 それをまったく見当外れだと否定するのも失礼な気がして、咄嗟にとりつくろってしまった。

「家で、ひとりで食事されることもあるんですか?」

 副社長は大学を卒業したあとはひとり暮らしだと聞いている。
 食事が用意されている実家暮らしとは違い、ひとりだと自分でなんとかしなければいけないはずだ。

 毎日外で食べているのか、なにかテイクアウトして帰っているのか。
 仕事上、会食も多いけれど毎日ではないので、それ以外の日はどうしているのか謎だった。

 副社長は自分で料理をするタイプには思えないが、家事代行のようなサービスを頼んで自宅で食べている可能性もある。
 それか、誰か料理上手な女性が出入りしている、とか?
 そこまで考えたとき、ピアスの女性のことが頭に浮かんだ。

 職場ではなかなか言う機会がなかったけれど、ほかの人がいない今、私があの女性を知っていると話してしまうほうがいい。というか、もっと早くに打ち明けるべきだった。

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