恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「もちろん家でも食べる。俺は料理しないから店に寄ってテイクアウトして。チーズ専門店で売ってるスモークチーズがマイブーム」

「そう……ですか」

「別に俺は普通だけど?」

 副社長は和食も似合うけれど、チーズも似合いそうだ。
 副社長の返事に納得しつつも、私の頭の中はすでに食事事情からピアスの女性のことへと移り変わっていた。

「副社長、お話があります」

「かしこまってどうした? まさか会社を辞めるとか言わないでくれよ?」

 副社長は冗談のつもりで笑っていたけれど、私の硬い表情を見て眉をひそめた。

「本当にそうなのか? だとしたら考え直してほしい」

 私が黙り込んでしまったので、本気で退職したいのだと副社長は勘違いしたようだ。私はあわてて「違います」と否定し、軌道修正をはかった。

「退職届をつきつけられなくてよかった。で、話って?」

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