恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 表情がホッと緩んだところで、お店の人が料理を運んできてくれた。
 揚げたての天ぷらと、綺麗に盛り付けられた鯛のお刺身、ハマグリとかわいらしい鞠麩(まりふ)が入ったお吸い物が並べられ、テーブルの上が一気に華やかになる。このあと釜飯やデザートも来るらしい。

「とりあえず冷めないうちに食べよう。この海老がうまいんだよ」

 副社長はお目当ての海老の天ぷらに少し塩をつけて、ひとくち(かじ)った。
 私も勧められて箸で海老をつまめば、揚げたてだから衣がカリカリとしていて、それだけで食欲をそそられた。

 これから真剣な話をしようとしているのに、こんなときでもお腹が減っている自分自身にあきれるけれど、その海老は本当においしくて、副社長がこの店を気に入っている理由がわかった。

「あの……お話なんですが」

 副社長が食事を続ける中、私は箸を置いて話し始めた。

「副社長が以前、ピアスを贈られた女性……保科 梓(ほしな あずさ)さんとは今もお付き合いがあるんですか?」

「ああ、メッセージが来るから返事はしてる。また食事に行きたいとは言われてるけど、お互いのスケジュールが合わなくて。……え、なぜ名前を知ってるんだ?」

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