恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 副社長の口ぶりからすると恋人関係に発展してはいなさそうだけれど、やはりまだ繋がっていた。
 視線を下げる私の顔を、副社長が腕組みをしながら少し覗き込んでくる。私が彼女の名前を知っているのはおかしいと、時間差で気づいたようだ。
 
「実は、私は彼女を知っています。今まで黙っていて申し訳ありません」

「え?!」

「私と梓は高校の同級生で、……親友として仲良くしている時期もありました」

 梓とは高校の入学式で知り合い、自然と友達になって一時期はなにをするにも一緒で、間違いなく“親友”だった。
 お互いの家に遊びに行ったことだって何度もある。

「喧嘩でもした?」

「……」

「そんな簡単な問題じゃなさそうだな」

 副社長は私の様子をうかがいつつ、静かにハマグリのお吸い物に手を伸ばした。
 私の深刻な顔をよそに、さほど興味がなさそうな態度に見える。
 もし副社長にとって梓が大切な存在なのだとしたら、私となにがあったか気になるはずなのに。

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