恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「梓には一方的に絶交されたので、高校卒業以降は一度も顔を合わせていません。だから副社長のスマホに梓のアイコンが映し出されたとき、驚いて息が止まりそうでした。この先もずっと黙っているのは違う気がして、お伝えするべきかと……」

 私の話を聞き、副社長は驚きつつも微妙な笑みを浮かべて小さくうなずいた。

「ですので、梓には私の話はしないほうがいいと思います」

「……わかった」

 スケジュール次第でふたりはまた食事に行くのかと想像したら、胸の中のモヤモヤがどんどん増してきた。
 今後ふたりが恋人に発展する可能性がまだあるからだ。

 副社長には梓と付き合ってほしくないし、仲良くすらしてほしくない。私は内心そう思っているのだと、自分の気持ちに今気がついた。

「ちなみに聞いていいか? どうして絶交になったのか」

 それなりの理由はあるはずだと、副社長は核心となる部分を私に尋ねた。そうでなければ親友と絶交などしないだろう、と。

「高校三年のときに梓に彼氏ができたんです。隣のクラスの男子でした」

 バレー部で背の高いイケメンの阿部くんだ。副社長に話していたら、自然に顔と名前を思い出した。
 だけど詳しい情報は今は必要はないので、話を先に進める。

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