恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「付き合いだして半年くらい経ったころ、突然梓の彼氏が私に好きだと告白してきました」

「……なるほど。男がらみか」

「簡単に言えばそうなります。だけど言い訳をするようですが、私はふたりの邪魔をした覚えはなくて……。むしろ逆で、応援していたんです」

 阿部くんに好きだと言われたとき、意味がわからずに唖然としたのを今でも覚えている。
 梓から告白されて付き合ったけれど、途中から親友の私に興味が湧いたのだと、彼はずいぶんと自分勝手なことを言いだした。

「梓の彼氏には困るとはっきり伝えました。聞かなかったことにするから、今まで通り梓と付き合って、と」

 阿部くんがそれに承諾してくれるのなら、すべて丸く収まるのではないかと私は考えた。
 今後は私がもっとふたりに気を使って三人のバランスを保てばいいと、当時はそんな短絡的な発想だったのだ。

「ですが、私と付き合うから別れたいと、彼はその日のうちに梓に伝えたそうです。梓は泣きながら私を電話で呼び出して真実を問いただしました。私は付き合うわけがないと否定したんですが、信じてもらえなかったんです」

 あのころの梓は本当に阿部くんが好きだったから妄信(もうしん)していて、彼の言い分をすべて鵜呑(うの)みにしたのだ。
 私がうそをついていて、今まで陰でこっそり付き合っていたのだと決めつけてきた。

『親友の彼氏を盗るなんて、莉佐って本当に最低だね!』

 そう言って私を(にら)んだ梓の瞳が憎しみに満ちていて、私はそれがショックだった。

「後日、誤解を解くために三人で話し合ってみたんですが、梓は私を性悪(しょうわる)だと責め、彼は私と付き合っているからと梓に身を引くように詰め寄り、私は彼が平気でうそを言うので腹が立ってしまって。結局まともな話し合いにはならなくて……」

 私にとってかなりのトラウマになっているから、思い出したら気分が悪くなってきた。もう昔の話なのに。

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