恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 友人たちが恋愛をして彼氏と楽しそうにしている場面は何度も見てきたけれど、別れて大泣きしているところも同じくらい目にしてきている。
 相手への気持ちが大きいほど、別れが来たときは辛そうだった。
 
 おととし結婚して三ヶ月前に男の子を出産した友人の実貴子(みきこ)はすごく幸せそうで、私にも恋愛や結婚を勧めてくる。
 旦那様は家事も育児も率先してやってくれる人で、家庭円満だそうだ。

 私は結婚の前に恋愛からスタートさせないといけないが、実貴子のようになれたらいいけれど、うまくいかずに別れて辛い思いをするのは嫌だと、私は最初から尻込みをしてしまう。

 傷ついてまで恋をする理由が、私にはないから。

「食わず嫌いなのかもしれないな。海老原は無理に恋愛を避けてるように見える」

「……そうでしょうか」

「海老原の胸をドキドキさせたり、キュンとさせる男が必ず現れるはずだ。そしたら自然と好きになれるだろう」

 人生長いのだから、あきらめずにがんばれと慰めてくれているのだろうか。
 苦笑いしながら下げていた視線を不意に上げれば、副社長の妖艶な瞳が私をとらえた。

「その男は、俺かもしれないが」

 ご冗談を、と返事をしようとしたが、痛いくらいに心臓が鼓動して言葉が出なかった。
 これだけのイケメンがカッコいいセリフを口にすると、まるでドラマの世界みたいで反則だ。

< 38 / 139 >

この作品をシェア

pagetop