恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「俺は恋愛がしたい。健吾みたいにフラフラしたものじゃなく、真剣な付き合いを」

 絵に描いたような素敵な男性である副社長ならば、付き合いたい女性はいくらでもいるはずだけれど。
 副社長自身が本気になって、きちんと向き合える女性でなければダメなのだろう。

「俺には年の離れた弟がいるんだ」

「え、それは初耳です」

「みんな噂レベルでは知ってるけど、はっきりと公表してはいないから」

 副社長に弟がいるなんて私は誰にも教えてもらえていなくて、今初めて聞いたからビックリした。
 だけど(おおやけ)にしていないのは、なぜなのか気になる。社内で知っている人間は一様に口をつぐんでいることになるのだから。

「弟はまだ十三歳で、俺とは異母兄弟になる」

 副社長はサラリと言ってのけたけれど、ただ事ではないと私はすぐに悟った。ご両親である社長夫婦は離婚されてはいないのに、母親違いの弟がいるという状況なのだ。

「親父が外で作った子どもだ」

 やはりそうなのかと、私はキュッと口を真横に結んで副社長を見つめた。
 会社で見る限り、社長は大して好色のようには思えないが、イメージとは違うのかもしれない。

< 39 / 139 >

この作品をシェア

pagetop