恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「ねぇ、海老原さん!」

 会議資料作りに没頭していると、秘書課の他の女性社員たち三人に机を囲まれていることに気がついた。突然なんなのかと嫌な予感が走る。

「ご用でしょうか?」

「海老原さんって、正直なところ、副社長のこと狙ってるの?」

「……は?」

 ニヤニヤとした笑みの向こうに、探るような意図を感じる。
 私はこういう会話が非常に苦手だ。女性ならではの陰湿なやり取りが嫌で、素直に顔が引きつってしまう。
 前の会社はこれが一切なかったから働きやすかったのに……。

「狙ってないです」

「本当に? だって海老原さんは深沢部長のコネで副社長の秘書になれたんでしょう? 最初から副社長狙いで入ってきたのかと思って」

 前の会社では人間関係もうまくいっていて働く環境として快適だったので、本心は異動なんてしたくはなかった。
 なのに副社長狙いで自らこっちに来ただなんて的外れもいいところだし、非常に心外だ。

「副社長はね、今まで誰も落とせてないから」

「そう、なんですね……」

「みんな狙ってるけど、どんな美人だろうと誰も相手にしてもらえないの。だから海老原さんも無理だと思うわよ? いくら深沢部長のコネでも」

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