恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「彼女には謝らないで欲しいと言った。乗り気じゃないのに見合いの席に現れた俺となにが違う? それに、たまたま彼女には心に決めた恋人がいたけれど、もしいなければ、本気で俺を気に入る逆の展開になる可能性もあったわけだ」

 イケメンの副社長が見合い相手なら断る人のほうが珍しいのではないかと思い、私は深くうなずいた。

「会ってから断ればいいなんて、俺の考えは間違っていた。危うく相手を傷つけるところだった。それからは見合いはごめんだと母親には伝えてある」

 ふと、『実は社長の奥様が、副社長のお相手はもう決めてあるとおっしゃっていた』と深沢部長が漏らしていた言葉が思い浮かんだ。
 蔵前結麻さんとのお見合い話が持ち上がるのは時間の問題のような気がする。
 
「俺は好きでもない相手と政略結婚だけは絶対にしない。気持ちがないのに結婚するのは不幸だ」

 気がつけば副社長がかなり上体を前に倒していて、テーブルを挟んでいるものの、私と顔の距離が近くなった。

「だから俺は、心の通い合った恋愛がしたい」

 目の前で瞳を射貫きながら、そんな言葉を言われたら誤解しそうになる。
 秘書であり、恋愛無知の私だから回避できるけれど、普通の女性だったら今ので絶対に堕ちてしまうだろう。

 副社長は複雑な家庭事情を抱えていそうだけれど、結婚だけは誰にも左右されたくない強い意志があるようだ。そして、恋愛したい理由もそれに関係している。

“心の通い合った恋愛”……私もそれなら一度はしてみたいかもしれない。

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