恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
3.親の決めた相手
***

 社用車で移動している最中、副社長のスマホに電話がかかってきたが、副社長は画面を見て相手を確認し、顔をしかめながらその電話に出た。
 車内には運転手さんと後部座席に私と副社長が乗っている構図で、聞かないでおこうとしてもどうしても会話の一部が耳に入ってしまう。

「もしもし。いや、今は車の中。……たしかにもうすぐ会社に着くけど、いきなり来られても困るから。は? ちょっと待って!……」

 会話の途中で電話を切られたのか、副社長が呆然とスマホを見つめたあと、ため息を吐いた。
 どうされましたか? と実際に言葉にはせずに、私は様子をうかがいつつ隣から視線だけで問いかけてみる。

「母親が今から会社に来るそうだ」

 車窓を眺めながらも、私に伝わる音量の声で副社長がつぶやいた。
 会話の内容から想像はついたけれど、電話をかけてきたのはお母様だったようだ。

 
 私と恋愛談義をしたあの夜から一ヶ月が経ったが、今のようにお母様からの連絡が最近増えているように感じる。
 副社長が干渉され始めたのは間違いないけれど、お母様は会社のことには無関心なので、きっとプライベートに関してだ。

 そう言えば、お母様は蔵前結麻さんとの縁談を望まれているはずで、その人とはどうなっているのだろう? 副社長は梓ともまだ連絡を取り合っているのだろうか。
 
 というより、私はなぜこんなに気になっているのか、それが一番の謎だ。
 きっと、ふたりでお互いの恋愛観を話したからだと思うけれど。

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