恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 私たちはこのあと直接スタジオへと向かい、私と副社長は生放送の見学に同席した。
 と言っても、私はあれこれ忙しくて、スタジオを出たり入ったりだった。

 ブーンとスマホが振動したのを合図に再びスタジオの外に出て、駆け寄ってきた秋本さんから紙袋を受け取る。

「秋本さん、すみません」

「ううん。それより、これでいいよね?」

 息を切らす秋本さんに申し訳ない気持ちでいっぱいになりつつ、袋の中身を確認する。

「これです。ロカボのフィナンシェ。本当に助かりました」

「間に合って良かったわ」

 お母様と結麻さんにはスタジオ横の部屋で待ってもらっている間にお茶は出したけれど、外部のお客様に帰りにお土産がないのも不格好だ。
 私の勝手な判断で準備することにしたが、なんせ急なことで時間がない。

 スタジオのスタッフに相談すると、先週の放送で評判が良かったシャンプーとトリートメントがあるというので、それをとりあえず揃えてもらった。
 あとはなにか適当なお茶菓子でも……と思ったのだが、結麻さんのお父様はフィットネスクラブの経営者だ。結麻さんがとてもスリムだとはいえ、体形を気にして甘いものは敬遠されるかもしれない。

 そこで私が思いついたのがロカボのフィナンシェだった。売っているお店にも心当たりがある。
 だけど私自身がこの場を離れるわけにはいかなかったので、秋本さんにヘルプをお願いしたら、快く買い出しを引き受けてくれたのだ。

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