恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「ありがとうございます。今度お昼をご馳走しますので」

「あはは。楽しみにしてるわね」

 先輩に使い走りをさせるなんて。秋本さんには本当に感謝しかない。

 スタジオ見学が終わり、お母様と結麻さんが会社を出られるときに「お荷物になりますが……」と準備したものを渡すと、結麻さんはうれしそうに受け取ってくれた。

「このフィナンシェ、ロカボなのにとてもおいしそうですね。シャンプーも早速今夜使ってみます」

 結麻さんはそう言って喜んでくれたけれど、お母様はイライラとした感情が未だに顔に出たままだった。
 副社長と三人でこのあと食事に行きたいというお母様の提案を、先ほど副社長が断ったのが原因らしい。

「まぁいいわ。食事の機会はまた作ればいいだけだものね」

 お母様は最後に副社長を睨み、迎えの車に結麻さんと共に乗り込んで帰って行った。
 私は深いおじぎでその車を見送り、そのあと頭を上げたときにはホッとして全身の力が抜けそうになった。

「今日は悪かった。すまない」

 副社長が私に申し訳なさそうな顔で謝るのを見て、気にしないでほしいとばかりに首を横に振った。私は自分の仕事をしただけだから。

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