恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 店先に置いてある花を眺めながらあれこれ考えていると、なんだか胸がムカムカして吐き気がしてきた。
 まだ五月だというのに今日はかなり気温が高い。昼と夜で寒暖差もあって、それだけでも体がおかしくなりそう。

 もしかしたら熱中症なのかもしれないし、休めば治りそうなので家路を急いだ。
 どこかコンビニか自販機で水を買って飲んだほうがいいなと、キョロキョロしながら歩いていたが、頭まで痛くなってくる。
 ついにどうしようもなくなり、私は歩道のガードレールに寄りかかってしゃがみこんだ。

 誰かに助けを求めたほうがいいだろうか。すぐに思い当たるのは妹だ。
 バッグからスマホを取り出しかけたところで、急に誰かに左腕を掴まれた。

「おい! 大丈夫か?!」

 声のする方へ目をやると、驚いた顔をした副社長が私を支えながら、同じようにしゃがみこんでいた。
 今日は休日だからいつものスーツ姿ではないけれど、白いシャツを羽織った私服も十分おしゃれだ。

「副社長……どうしてここに?」

「車で走ってて見かけて、声をかけようとしたらいきなり倒れるから焦った。立てるか?」

 まだ頭がふわふわとするものの、小さくうなずいてゆっくりと立ち上がった。

「すみません。突然気持ち悪くなっちゃって……」

 律儀な性格なため、こんなときですら現状を説明しようと口を開きかけたが、体が辛くて息をするだけで精いっぱいだ。

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