恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「副社長の休日を潰してしまいました」

「そんなこと気にしなくていい。たいした用事はなかった」

 副社長はそんなふうに言ってくれたけれど、私のせいでどこかに行く予定を変更させてしまったのかもしれないと思うと申し訳なくなってくる。
 ふわりと自然に微笑む副社長の姿は、普段会社で目にする表情とはなんとなく違って新鮮だ。イケメンに変わりはないけれど。

「家まで送っていく」

「いえ! そこまでしてもらうわけには……」

「いいから言うことを聞けって」

 (がん)として引かないと宣言するような、はっきりとした声音で言われてしまい、私はうなずくしかなかった。
 病院の駐車場まで歩くときも、副社長は私に歩幅を合わせてゆっくりと進んでくれた。そういうさりげない部分にもやさしさを感じる人だ。

 ふたりで車に乗りこんだところで私が自宅の住所を告げると、副社長がギアをドライブに入れて静かに発進した。


< 68 / 139 >

この作品をシェア

pagetop