恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「お名前は?」
 
 にこにことした人懐っこい笑みで男性が私に名を尋ねた。

「し、失礼しました。海老原 莉佐と申します」

「俺は神山 健吾(こうやま けんご)。唯人の友達なんだ」

 健吾さんは副社長とは同い年で、小さい頃から付き合いはあったけれど、同じ高校に通ったことでさらに仲良くなったのだと説明してくれた。

 私に対し「よろしくね」と握手を求められたのでそっと右手を出せば、健吾さんは私の手の甲をまじまじと見つめ、なかなか離さなかった。

「莉佐ちゃんの手は柔らかくて綺麗だね。スベスベ」

「こら、それはセクハラだ!」

 副社長が健吾さんの手首を掴んで私の手から引き離す。
 健吾さんに悪気がないのはわかっていたので、大丈夫だという意味で緩い笑みを浮かべておいた。
 副社長の指摘通り、たしかに今のご時世は不用意に社員の体の一部に触れるのは好ましくない行為で、相手が嫌だと思えばセクハラになってしまう。


 副社長は落ち着いた大人の雰囲気だけれど、健吾さんは真逆のタイプでいたずらっ子のような感じがする。
 ダークブラウン色にカラーリングした髪のせいも多少関係あるのか、副社長と同い年とは思えず、いくつか若く見える。
 だけど身長は副社長と同じく長身だし、スタイルも良く、やさしそうな柔らかい顔立ちをしている健吾さんもイケメンの部類だ。

「こいつ、女好きだから気を付けて」

 副社長がしかめっ面で私に言うと、それを聞いた健吾さんは否定せずにアハハと笑い飛ばした。

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