恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 どう答えたらいいのかわからなくて口ごもると、副社長の左腕が伸びてきて私の後頭部を支え、そのまま自然に唇と唇が重なった。
 なにか思いつめたような副社長の瞳にとらわれた私は、そのキスを拒むことなどできなかった。

 ゆっくり唇が離れたと思ったら、再び角度を変えて奪われる。普段の副社長とは違い、男の色気が増している。

「莉佐……」

 気がつくと体を丸ごとギュッと抱きしめられ、耳元で囁かれた。
 副社長に下の名前で呼ばれたのは、当然ながら初めてだ。

「心臓がドキドキしすぎて死にそうです」

 ドキドキというより鼓動するたびに心臓がきしむように痛いし、顔は熱くて燃えてしまいそうだ。

「その理由は、俺を好きだからだ。違うか?」

 副社長の腕の力が緩まり、鼻先が触れ合うくらいの至近距離で問われたけれど、私はどう答えるのが正解か一瞬迷った。私には秘書としての立場がある。
 でも今はプライベートな時間だから、それは関係ないのだろうか。

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