恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「地味なメニューでごめんなさい」

「え、めちゃくちゃうまそうだけど?」

 いくらなんでもボリュームが足りないだろうか、と作りながら考えていたところだった。
 若い男性にはもっとガッツリしたメニューのほうが良かったかもしれない。

「次はもっと豪華なもの作りますね」

「いや、がんばらなくていいっていつも言ってるだろ?」

 仕事が終わって疲れているのはお互い様なので、食事を作ったり気を使わなくていいと唯人さんは最初に言ってくれた。
 外で食べてもいいし、デリバリーを頼んでもいい、臨機応変にいこう、と。
 だけど私が彼をもてなしたいのだ。単純によろこぶ顔が見たいから。

「俺の世話を焼くのは勤務時間だけで充分」

「じゃあ、プライベートは逆転します?」

「いいよ? 俺に甘える莉佐もかわいいだろうな」

 私が恋人に甘える姿など、実際にはまったく想像できない。
 映画やドラマで、お風呂上りに彼氏にドライヤーで髪を乾かしてもらうシーンには、密かに憧れがある。
 私にもそんな日がいつか来たらいいなと、彼に抱きしめられながら顔がほころんだ。

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