恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「あれは、なにを買ってきてくれたんですか?」

 やって来て早々に彼がテーブルの上に置いたビニールの袋を指さして、その中身を尋ねた。

「ローストビーフ。うまそうだったから」

「……筑前煮と合わなくないですか?」

「どっちも食べればいいって」

 私が用意したメニューでは肉類が足りないと思っていたので、正直ありがたい。
 カッコいい唯人さんは、なんとなくローストビーフも似合う。さすがはイケメンだと感心してしまった。

「なにから手伝う?」

 唯人さんが意気揚々と腕まくりをする。こうして恋人となにか一緒にやるのが楽しいことは、彼から教わった。

「じゃあ、冷蔵庫に入ってるビールをテーブルに運んでください。あと、お皿も」

「了解」

「すぐに揚げ出し豆腐作っちゃいますね」

 ていねいに粉をまぶした豆腐を油で揚げてつゆをかければ、外はカリッと中はふわふわな揚げ出し豆腐の出来上がりだ。
 地味だけど私はこれが好きで、彼にも一度食べてほしかった。

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