恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「莉佐、うまい!」

 狭いテーブルに料理を並べ、ふたりでビールの入ったグラスで乾杯する。
 そのあと彼は真っ先に揚げ出し豆腐に手を伸ばし、ひと口食べるなりおいしいと言ってくれてホッとした。

「唯人さん、こっちの筑前煮も。実は自信あるんです」

「莉佐は料理が上手だよな」

 大皿に盛った筑前煮を勧めれば、唯人さんは素早く小皿に取り分け、味の染みたレンコンを口に含んで「うわぁ、うまい」と(うな)ってくれた。
 お世辞でもそんな反応を見せてくれるのはうれしい。どんどんほかのメニューも作りたくなる。

「店で出せるレベルだな」

「大げさですよ」

 実は彼のお母様は、あまり家庭料理を作ってこなかったのだとこの前なにげなく話してくれた。
 家政婦さんに任せることもあれば、自分で作ってみたり、そのあたりもお母様は昔から気まぐれだったそうだ。
 お母様が作るメニューはシャレたものが多かったけれど、彼は逆に、普通の家庭料理を恋しく思うようになったのだとか。

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