恋する理由がありません～新人秘書の困惑～
「ローストビーフもおいしいです。ありがとうございます」

　デパ地下で買って来てくれたのであろうローストビーフは柔らかくて色も綺麗で、なによりお肉の味がおいしかった。

「礼を言うのはこっちだ。こんなにうまい飯を作ってくれて」

「そんな……」

　正直に言えば、平日は仕事が終わってからだからあまり時間がなくて簡単なものしか用意できない。
　本当はもっと手間ひまのかかったもののほうがいいとわかってはいるのだけれど。

「俺のために作ってくれた。そうだろ？」

　コクリとうなずけば、唯人さんはうれしそうに微笑んだ。

　食事をしている最中に、唯人さんのスマホから短い着信音が鳴った。メッセージのようだ。
　彼はいったん箸を置いてスマホの画面を確認したが、その瞬間、眉根を寄せて顔をしかめた。

「大丈夫ですか？」と声をかけたが、唯人さんは「なんでもない」と言い、そのまま食事を続けてメッセージに返事をしなかったので、誰からなのか聞くタイミングを逃してしまう。

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