恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 食べ終わった食器を片づけるときも、唯人さんは必ず手伝ってくれる。
 座って待っていてと私が言っても、やりたいのだと主張して聞かない。
 皿洗いをするところなんて会社では絶対に見られないから、私だけの特権だと思うと実はうれしい気持ちもある。

 片づけがすべて終われば、バスルームへと消えるのが彼のルーティンだ。今は夏なので早く顔や体の汗を流したいのだろう。

「莉佐もシャワー浴びるよな?」

「え、あ、うわぁ……」

 さっぱりした、と言いながらバスルームから出て来た唯人さんは、下は短パンを履いているものの、上半身は首からタオルをかけただけでなにも身につけていなくて、私はあわてて目を逸らせてしまう。

「なんだよ、初めて見たわけでもないのに」

 たしかにそのとおりだけれど、適度に鍛えていて筋肉の付いた胸板が露出していると、半端ない色気が漏れ出しているのだ。

「ま、こっちもわざと見せつけてるけど」

「もう! 唯人さん!」

「あはは」

 私がひどく照れるのは想定済みで、完全に面白がっている。
 そして目を逸らせている私に近づき、その(たくま)しい両腕で捕まえて抱きしめるのはいつものこと。

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