恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「唯人さんから良い香りがします」

「莉佐が使ってるボディーソープだ」

「あの……私は汗臭いので、離れてください」

 私はシャワーを浴びる前なので、近づかれると臭うのではないかとさすがに心配になるが、彼はいつも、しばらくのあいだ離してくれない。

「莉佐から汗の臭いなんてしたことはないだろう」

「う、うそですよ。私だって人間だから汗くらい……」

「俺はこのままベッドに行ってもいいけど?」

 彼が耳元でささやいた瞬間、体がゾワゾワとした。
 だけどその言葉はシャレにならない。私は抱きしめられている腕から逃れ、あからさまに困った顔をした。

「無理です!」

 今日一日働き詰めで汗をかきまくっているのに、シャワーを浴びずになんて要望は却下に決まっている。

「はは。今のは絶対に会社では見られない顔だな」

< 83 / 139 >

この作品をシェア

pagetop