恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「莉佐、久しぶりね」

「梓……」

 私を睨みつけながら距離を詰めてきたのは、かつての親友の梓だった。
 こうして直接顔を見るのは、高校の卒業式以来だ。

 私が唯人さんの秘書になりたてのころ、彼女のSNSを目にしたことはあった。
 顔写真をアイコンにしていたのだけれど、高校生のときと比べれば当然ながら大人の女性になっている。

 梓の身長の高さになんとなく違和感を覚えたが、高いヒールを履いているせいだった。
 ヨガ講師をしているのもあって、ノースリーブのトップスから出た腕も、タイトのミニスカートからのぞく脚も、筋肉が引き締まっていて綺麗だ。
 髪は肩につくくらいの長さのボブで、ばっちりとメイクを(ほどこ)している。
 私にはその濃い色の口紅がなんだか攻撃的に見えるけれど、それが今の彼女のスタイルなのだろう。

「アンタの会社に行ったら、お昼休みだったのよ」

 まつ毛もしっかりとエクステされているな、などとどうでもいいことを考えていたところへ、いきなり梓の平手が飛んできて私の左頬を打った。

 パンッ!と派手な音がしたが、私は一瞬なにが起こったのかわからず、動揺してよろめいた拍子に提げていたコンビニの袋を地面に落とした。

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