恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
 私は彼女の指摘を認めて静かに返事をしてみたが、それすら気に入らないのか、梓はあからさまに眉をひそめた。

「冷静ぶっちゃって。莉佐のそういうとこ、昔から大嫌いなのよ。なにを言われても動じません、みたいな態度!」

 今の言葉を聞くと、もしかしたら彼女は私との仲がこじれる前から、内心では嫌っていたのかもしれない。
 だが、当時の私はそれに気づくことはできなかった。

 たしかに私は性格的に冷静沈着だけれど、梓は感情が先に立つタイプなので、元々真逆だ。

「今日来たのは、唯人さんのことでだよね?」

 早く本題に入ろう。
 友人関係を辞めてから交流のない私たちのあいだで、唯一共通する人物は唯人さんだから、話があるとするならそれしかない。

 今でもまだ唯人さんと梓は繋がっていたのかと思うと、胸の奥がズキズキと痛くなった。
 だけど彼女にしてみても、顔も見たくない私にわざわざ会いに来たのだから、よほど腹を立てているのだろう。

 先ほど平手打ちされた左頬がジンジンとして熱を持ってきた。
 思わず左手で叩かれたところを(さす)れば、梓が満足そうにニヤリと笑った。

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