恋する理由がありません~新人秘書の困惑~
「あら、痛い? それはよかった。なんならもう一発ビンタしようか?」

「なんでよ。叩かれる意味がわからない」

 私がボソリと漏らした言葉を梓はしっかりと聞いていたようで、顔から一瞬でニヤついた笑みが消えた。

「わからないわけないでしょ? さっき自分で言ったじゃないの。唯人さんのことよ!」

 だんだんと梓の声が大きくなってきたので、「落ち着いて」と咄嗟に口にしそうになった。
 だけどそれは彼女には逆効果なのを、私はよく知っている。

「唯人さん、最近ずっと冷たいの。なんでだろうって探ってみたら、アンタが彼の秘書になってた。まさか私の邪魔をするために彼に近づいた?!」

「それは違う!」

 私は大きくかぶりを振り、悲痛な思いで目の前の彼女を見つめた。
 梓に対して恨みを抱き、意図的に唯人さんに近づいて秘書になっただなんて、深読みしすぎにも程がある。

「すべて偶然なの。梓が唯人さんと出会ったのも、私が秘書になったのも」

「莉佐より私のほうが先に彼と知り合ったわ!」

「……そうね」

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