おじさんには恋なんて出来ない
 しかしながら、現実はそんなに甘くない。

 夕食の時間帯だからか、店に行くなり店員に満席だと告げられた。

 ジャルダンは人気の店だ。おまけに夜がメインの店だから、予約していかないとすぐに埋まってしまう。

 ────最悪。電話しておけばよかった。

 店のスタッフは美夜を顔見知りだ。訪れた美夜に言ってくれれば空けておいたのに、と言われた。

「……ごめんなさい。せっかく来たのに」

 店の前に佇み、美夜は項垂れた。せっかく再会したのに格好悪いところばかり見せている。

「この時間帯だからな……すみません。俺も考えが足りなかった」

「どうしましょう。他のお店を探しましょうか」

 やっぱりやめよう、なんて言われないかヒヤヒヤした。だって別に自分達は食事しなければならないわけじゃない。本来なら永遠に会わないはずだったのだから。

「美夜さんは、お腹空いてますか」

「い、いえ。どっちでも……」

 ────しまった。そんなふうに言ったらやっぱり帰ろうなんて言われる。

「なら、少し歩きませんか」

 しかし、辰美は予想しなかった提案をした。どういうつもりなのか、静かに笑みを浮かべるだけだ。

「はい……」

 多分、今の辰美になら地球の裏側や海の底に行こうと言われてもついて行く気がする。

 美夜は辰美の横に立つと、ぎこちなく足を踏み出した。
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