おじさんには恋なんて出来ない
美夜は次の日のスケジュールをずらして辰美の家に行くことにした。
いつも色々してもらっているお詫びに、こっそり家にお邪魔して、辰美が家に帰る前に夕飯を用意する、というサプライズだ。
大したことではないが、せめてもの誠意だ。嫌われる前に自分にできることをしたかった。
忙しいせいで普段外食に頼りっきりなせいか、自炊の腕前は以前よりも落ちてしまったかもしれない。辰美の好物を用意することは簡単ではなかったが、レシピを見ながらなんとか作った。
夜の七時を過ぎた頃、玄関のロックを外す音がした。美夜はキッチンにいる。玄関から辰美の「えっ」と驚く声が聞こえた。やがて足音が慌てた様子で近づいて来る。
「美夜さん!?」
思った通り、辰美は驚いていた。
「え、今日は仕事って言ってなかったか……?」
「はい。でもずらしちゃいました」
「どうして……」
「最近、辰美さんと一緒にいる時間がなかったので……たまにはちゃんとしようと思って。大したことじゃないですけど……」
「……っそんなこと考えなくていい。君は仕事があるんだ。俺のことなんて後回しにして構わないから、今からでも行くべきだ」
────……もっと喜んでもらえると思ったのに。
自分で勝手に来て、勝手に傷付いている。挽回しようと思ったが、もう遅かったのだろうか。それとも、不真面目な女性に見えただろうか。合鍵は貰っていたが勝手に台所をいじったりして迷惑だっただろうか。
どんどん辰美に嫌われていく気がして辛い。
「ごめんなさい……勝手なことして……」
「ごめん! そんなつもりじゃないんだ。迷惑とかそういうんじゃなくて……」
美夜がしゅんと俯くと、辰美は急に慌てて弁解し始めた。
「君が無理してるんじゃないかと思って心配したんだ。だから、俺のことは気にしなくていい」
「……気にしなくなったら一緒にいる意味がないじゃないですか。私はあなたの恋人なのに」
こんなところで拗ねて────。やっぱり子供っぽい。もっと大人の女性なら、献身的に接しただろうか。
辰美となら上手くやっていけると思ったのに、やっぱりピアノを続けている限り恋人なんて無理なのだろうか。
いつも色々してもらっているお詫びに、こっそり家にお邪魔して、辰美が家に帰る前に夕飯を用意する、というサプライズだ。
大したことではないが、せめてもの誠意だ。嫌われる前に自分にできることをしたかった。
忙しいせいで普段外食に頼りっきりなせいか、自炊の腕前は以前よりも落ちてしまったかもしれない。辰美の好物を用意することは簡単ではなかったが、レシピを見ながらなんとか作った。
夜の七時を過ぎた頃、玄関のロックを外す音がした。美夜はキッチンにいる。玄関から辰美の「えっ」と驚く声が聞こえた。やがて足音が慌てた様子で近づいて来る。
「美夜さん!?」
思った通り、辰美は驚いていた。
「え、今日は仕事って言ってなかったか……?」
「はい。でもずらしちゃいました」
「どうして……」
「最近、辰美さんと一緒にいる時間がなかったので……たまにはちゃんとしようと思って。大したことじゃないですけど……」
「……っそんなこと考えなくていい。君は仕事があるんだ。俺のことなんて後回しにして構わないから、今からでも行くべきだ」
────……もっと喜んでもらえると思ったのに。
自分で勝手に来て、勝手に傷付いている。挽回しようと思ったが、もう遅かったのだろうか。それとも、不真面目な女性に見えただろうか。合鍵は貰っていたが勝手に台所をいじったりして迷惑だっただろうか。
どんどん辰美に嫌われていく気がして辛い。
「ごめんなさい……勝手なことして……」
「ごめん! そんなつもりじゃないんだ。迷惑とかそういうんじゃなくて……」
美夜がしゅんと俯くと、辰美は急に慌てて弁解し始めた。
「君が無理してるんじゃないかと思って心配したんだ。だから、俺のことは気にしなくていい」
「……気にしなくなったら一緒にいる意味がないじゃないですか。私はあなたの恋人なのに」
こんなところで拗ねて────。やっぱり子供っぽい。もっと大人の女性なら、献身的に接しただろうか。
辰美となら上手くやっていけると思ったのに、やっぱりピアノを続けている限り恋人なんて無理なのだろうか。