おじさんには恋なんて出来ない
番外編 第四話 この花を君に捧げる
こんにちは、辰美さん。お元気でしたか。と言っても、一週間ぶりですが。
最近少し寒くなってきたから、あなたも体が冷えるんじゃありませんか。今度なにか持ってきましょうね。
最近変わったことは……ああ、そうそう。この間縁がコンクールで賞を取ったんですよ。ええ、私たちの大事な一人娘です。すごいでしょう? あの子も一所懸命頑張っているんです。
でもね、私は賞なんてどうでもいいと思っているんです。あ、くだらないという意味じゃありませんよ。あの子が目指す場所がどこであっても、ピアノが好きならそんなこと関係ないという意味です。
私も音大を出ずにここまでやってきましたから、周りにはあれこれ言われました。でも、今はそれでよかったと思っています。あなたとも出会えました。あ、今ちょっと笑ったでしょう。
もう一年も経ったなんて、なんだか信じられません。私はなんとかやっています。
縁も大人になって、手を離れましたし、私は相変わらずの毎日です。
時々、思うんです。ピアノをやっていなかったら、一体どんな人生を送っていたのかって。普通の仕事をしていたんでしょうか。
でもやっぱり、そんなの嫌ですね。だってピアノをやらなければあなたには出会えなかったんですから。
以前も思っていましたが……今日この頃、特に思います。
結婚してから、あなたは私にたくさん尽くしてくれました。コンサートのたびに足を運んでくれて、いつも花束をくれました。家庭でも私を支えてくれました。
それなのに、私ときたら忙しくてあなたをほったらかしにしてばかりで、ちっともよくない嫁でしたね。ごめんなさいね。いつもあなたに甘えてばかりで。
泣いてなんかいませんよ。だって泣いたらあなたが悲しむじゃあないですか。
今日もお花を持ってきたんですよ。ほら、あなたが好きなスターチスの花です。
私、最近になって知ったんですが、この花は春のお花だったんですね。あなたが年中持ってくるから、年中咲いているのかと思っていました。お花屋さんが教えてくださったんですよ。
あなたが初めてくれたプレゼントです。そういえば、どうしてこの花を選んだのか、聞いたことがなかったですね。
どうしてこの花をくれたんですか?
あなたはお花に詳しい人じゃありませんから、もしかしたら偶然かもしれませんね。
スターチスの花言葉を知ってますか? 「変わらぬ心」と言うんです。
その言葉の通り、あなたはずっと私を大切にしてくれましたね。いつも優しくて、温かい人でした。
あなたがどんな気持ちでこの花を選んだのだとしても、私は構いません。出会った頃と何一つ変わっていません。
あなたはきっと、私と一緒になると決めた時、色々考えたことでしょう。出会った当初から周りに小言を言われることが多かったですから、一緒に歩くだけでも気に病んだことでしょう。
あなたはいつも心配していました。歳上の自分のせいで私が肩身の狭い思いをしてるんじゃないかと……。けれどそんなことはないんですよ。
他の人は何も知りませんから、私たちのことをあれこれ言って、気持ち悪いだなんて言いますけども、私はやっぱり、そう思いません。
あなたはとても素晴らしい人でした。誰よりも立派な人でした。
私は人を愛せるあなたをとても尊敬しています。
辰美さん。あなたは私と一緒にいて幸せでしたか?
私はとても幸せでした。とても素敵な恋でした。
あなたがいなくなっても、ずっとそう思っています。
大丈夫、泣いてません。あなたの後を追いかけたりもしません。
だってまだやりたいことがありますから。
私があなたの元に行くまで、あと二十年ぐらいでしょうか。少なくとも、あなたと同じくらい長生きしたいですね。
あなたは寂しいでしょうけど、たくさんお土産話を聞かせますから、待っていてください。
……ああ、長話してしまいましたね。じゃあ、私はそろそろ行きます。
また来月の月命日には会いにきますから。
じゃあ、辰美さん。また。
最近少し寒くなってきたから、あなたも体が冷えるんじゃありませんか。今度なにか持ってきましょうね。
最近変わったことは……ああ、そうそう。この間縁がコンクールで賞を取ったんですよ。ええ、私たちの大事な一人娘です。すごいでしょう? あの子も一所懸命頑張っているんです。
でもね、私は賞なんてどうでもいいと思っているんです。あ、くだらないという意味じゃありませんよ。あの子が目指す場所がどこであっても、ピアノが好きならそんなこと関係ないという意味です。
私も音大を出ずにここまでやってきましたから、周りにはあれこれ言われました。でも、今はそれでよかったと思っています。あなたとも出会えました。あ、今ちょっと笑ったでしょう。
もう一年も経ったなんて、なんだか信じられません。私はなんとかやっています。
縁も大人になって、手を離れましたし、私は相変わらずの毎日です。
時々、思うんです。ピアノをやっていなかったら、一体どんな人生を送っていたのかって。普通の仕事をしていたんでしょうか。
でもやっぱり、そんなの嫌ですね。だってピアノをやらなければあなたには出会えなかったんですから。
以前も思っていましたが……今日この頃、特に思います。
結婚してから、あなたは私にたくさん尽くしてくれました。コンサートのたびに足を運んでくれて、いつも花束をくれました。家庭でも私を支えてくれました。
それなのに、私ときたら忙しくてあなたをほったらかしにしてばかりで、ちっともよくない嫁でしたね。ごめんなさいね。いつもあなたに甘えてばかりで。
泣いてなんかいませんよ。だって泣いたらあなたが悲しむじゃあないですか。
今日もお花を持ってきたんですよ。ほら、あなたが好きなスターチスの花です。
私、最近になって知ったんですが、この花は春のお花だったんですね。あなたが年中持ってくるから、年中咲いているのかと思っていました。お花屋さんが教えてくださったんですよ。
あなたが初めてくれたプレゼントです。そういえば、どうしてこの花を選んだのか、聞いたことがなかったですね。
どうしてこの花をくれたんですか?
あなたはお花に詳しい人じゃありませんから、もしかしたら偶然かもしれませんね。
スターチスの花言葉を知ってますか? 「変わらぬ心」と言うんです。
その言葉の通り、あなたはずっと私を大切にしてくれましたね。いつも優しくて、温かい人でした。
あなたがどんな気持ちでこの花を選んだのだとしても、私は構いません。出会った頃と何一つ変わっていません。
あなたはきっと、私と一緒になると決めた時、色々考えたことでしょう。出会った当初から周りに小言を言われることが多かったですから、一緒に歩くだけでも気に病んだことでしょう。
あなたはいつも心配していました。歳上の自分のせいで私が肩身の狭い思いをしてるんじゃないかと……。けれどそんなことはないんですよ。
他の人は何も知りませんから、私たちのことをあれこれ言って、気持ち悪いだなんて言いますけども、私はやっぱり、そう思いません。
あなたはとても素晴らしい人でした。誰よりも立派な人でした。
私は人を愛せるあなたをとても尊敬しています。
辰美さん。あなたは私と一緒にいて幸せでしたか?
私はとても幸せでした。とても素敵な恋でした。
あなたがいなくなっても、ずっとそう思っています。
大丈夫、泣いてません。あなたの後を追いかけたりもしません。
だってまだやりたいことがありますから。
私があなたの元に行くまで、あと二十年ぐらいでしょうか。少なくとも、あなたと同じくらい長生きしたいですね。
あなたは寂しいでしょうけど、たくさんお土産話を聞かせますから、待っていてください。
……ああ、長話してしまいましたね。じゃあ、私はそろそろ行きます。
また来月の月命日には会いにきますから。
じゃあ、辰美さん。また。