おじさんには恋なんて出来ない
第六話 おじさん、恋をする
朝起きて、辰美は一番最初にリビングに置いているコンポの電源を点けに行った。最近買ったばかりのビクターのコンポだ。
ウッドテイストな見た目と音が気に入って買ったのだが、聞くのはもっぱらMIYAの曲ばかりだった。
だが、今日は軽やかなピアノのBGMを聞いても明るい気持ちにはなれない。
辰美は昨日の夜のことを思い出して憂鬱な気分になった。
────よろしければお父様も是非。
声を掛けてきた男性は悪気なさそうに言った。本当にそう思っていたのだろう。おそらく、あの時あの店を訪れていた客のほとんどがそう思っていたはずだ。
辰美自身そう感じていた。MIYAと一緒にいる時の自分は百パーセント「恋人」ではなく「お父さん」か「叔父さん」、もしくは「上司」。けっして恋人なんて甘い関係には見えない。
事実そんな関係ではないが、ああして面と向かって言われると堪える。
MIYAはどう思っただろうか。こんな自分と一緒に食事して恥ずかしい思いをしたのではないだろうか。だからあそこで席を立ったのではないか。
つい浮かれて誘ったものの、いざ対面するとますます釣り合わないような気がしてきた。
バツイチの男があんな若い女性と付き合うなどそもそも無理がある。
MIYAは未来ある女性だ。こんなしょうもない男に引っかかって人生を無駄にしてはいけない。
出勤すると、有野が声を掛けてきた。
「課長、そういえばあのお店どうでしたか?」
「え?」
「ジャルダンですよ。金曜の夜に行くって言ってたじゃないですか」
「ああ……うん。よかったよ。いい店だった」
「お相手の人も喜んでくれたでしょう?」
辰美はMIYAの反応を思い出した。MIYAは喜んでいた。食事も美味しそうに食べていたし、楽しそうにしていた。
ただ一つ、欠点があるとしたら食事の相手だ。こんなおじさんでなければ────それこそもっと若くていい男なら喜んでいただろう。
「課長?」
「いや……どうだろうね。私が相手ではつまらなかったんじゃないかな」
「何言ってるんですか。課長は格好いいですよ」
「はは、有野くんはお世辞が上手いな。ありがとう」
一瞬でも夢を見たのが馬鹿だった。そもそも釣り合わない相手だというのに、浮かれて勘違いしていたのだ。
食事はあの一回きりで終わるだろう。そして自分はファン以上になることはない。
ウッドテイストな見た目と音が気に入って買ったのだが、聞くのはもっぱらMIYAの曲ばかりだった。
だが、今日は軽やかなピアノのBGMを聞いても明るい気持ちにはなれない。
辰美は昨日の夜のことを思い出して憂鬱な気分になった。
────よろしければお父様も是非。
声を掛けてきた男性は悪気なさそうに言った。本当にそう思っていたのだろう。おそらく、あの時あの店を訪れていた客のほとんどがそう思っていたはずだ。
辰美自身そう感じていた。MIYAと一緒にいる時の自分は百パーセント「恋人」ではなく「お父さん」か「叔父さん」、もしくは「上司」。けっして恋人なんて甘い関係には見えない。
事実そんな関係ではないが、ああして面と向かって言われると堪える。
MIYAはどう思っただろうか。こんな自分と一緒に食事して恥ずかしい思いをしたのではないだろうか。だからあそこで席を立ったのではないか。
つい浮かれて誘ったものの、いざ対面するとますます釣り合わないような気がしてきた。
バツイチの男があんな若い女性と付き合うなどそもそも無理がある。
MIYAは未来ある女性だ。こんなしょうもない男に引っかかって人生を無駄にしてはいけない。
出勤すると、有野が声を掛けてきた。
「課長、そういえばあのお店どうでしたか?」
「え?」
「ジャルダンですよ。金曜の夜に行くって言ってたじゃないですか」
「ああ……うん。よかったよ。いい店だった」
「お相手の人も喜んでくれたでしょう?」
辰美はMIYAの反応を思い出した。MIYAは喜んでいた。食事も美味しそうに食べていたし、楽しそうにしていた。
ただ一つ、欠点があるとしたら食事の相手だ。こんなおじさんでなければ────それこそもっと若くていい男なら喜んでいただろう。
「課長?」
「いや……どうだろうね。私が相手ではつまらなかったんじゃないかな」
「何言ってるんですか。課長は格好いいですよ」
「はは、有野くんはお世辞が上手いな。ありがとう」
一瞬でも夢を見たのが馬鹿だった。そもそも釣り合わない相手だというのに、浮かれて勘違いしていたのだ。
食事はあの一回きりで終わるだろう。そして自分はファン以上になることはない。