おじさんには恋なんて出来ない
第七話 おじさんでも好きなんです
 日曜日、美夜は鞄の紐を握りしめ、待ち合わせ場所に佇んだ。

 今日は日向と買い物(デート)に出かける日だ。

 なんやかんや嘘をついてしまったが、ああでも言わないと日向は来てくれそうにない。罪悪感はあるが、断られなくてホッとした。

 あの日一緒に食事して、日向のことを色々知れた。プライベートなことを教えてもらって、より彼が理解できたように思う。

 離婚していたことは衝撃的だったが、結婚していなかったことは幸いだ。絶対に既婚者だと思っていたから、下手すれば諦めなければならないと覚悟していた。

 ────けど、日向さんが離婚なんて信じられないな。

 美夜は離婚の話をした時の日向の悲しそうな顔を思い出した。

 自分と出会った時、日向は悩んでいたと言っていた。もしかしたらそれは離婚のことだったのかもしれない。

 色々事情があるだろうが、日向ような人物が離婚するなんてよほどのことがあったのだろう。今はまだ聞けないが、自分ができることは日向をピアノで癒してやることだ。

 そして出来れば、女性として隣に立ちたい。

「MIYAさん」

 穏やかな声で美夜の意識は現実に引き戻された。現れた日向は珍しく私服を着ていた。今日が休日だからだろう。

 美夜は思わず見惚れた。

 普段とは違うラフな格好だが、いつもきっちりとしたスーツが多いだけに、ジーンズを履いているだけでなんだか素敵に見えてしまう。

 そういう自分は割と気合を入れてかわいい格好をして来たのだが、日向はどう思っているのだろうか。

「こんにちは。お昼の時間帯に会うのは初めてですね」

「そうだね。今日は何を見に行くんだい」

「あ、えっと……」

 プレゼントを見に行くにはただの口実だ。だから実際は贈る相手などいないのだが、理由を考えなければ日向に疑われてしまう。

 しかし父親とはもう疎遠でプレゼントを贈ることもないし────。

「ピアノを教えてくれている先生に、です。お世話になってるので何かしたいなと思って」

「そうか、ピアノの先生か……」

 どうやら日向は納得したようだ。そんな人物はいないが、嘘も方便だ。今日はとにかく日向と一緒にいたかった。

「先生は俺と同い年ぐらいの人?」

「多分、そうだと思います」

「分かった。じゃあ、色々見て回ろうか」
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