おじさんには恋なんて出来ない
 真っ暗な画面に反射する浮かない顔。辰美は画面に映った自分の顔を見つめた。

 仕事中なのにだらしない。手が進まないせいで画面は既にスリープモード。真っ暗状態だ。ぼんやりした自分の顔を見ていると余計に気分が滅入る。

「課長? どうかしたんですか」

 横を通ると、有野が気遣わしげに話しかけてきた。

「あ……いや。ちょっと仕事のことで悩んでいてね」

 苦笑いで誤魔化す。有野はその言葉通り、辰美が仕事のことで悩んでいると思ったのだろう。同調するように困った顔を浮かべた。

「課長が悩むなんて、よっぽどですね」

「それは俺が悩みがなさそうって意味かい?」

「ち、違いますよ! いつも落ち着いてるからそういう姿を見るの珍しいなって……馬鹿にしてるんじゃないんです!」

「はは。分かってるよ」

 本当の悩みの種は仕事ではない。MIYAだ。

 あれ以来連絡していないが、彼女は気を悪くしたのではないだろうか。雑な断り方で不愉快に感じたかもしれない。

 だが仕方なかった。あれ以上一緒にいると、本当に勘違いしてしまいそうだったから。MIYAの言葉を都合よく勘違いして、とんでもないことをする前に帰ってよかったのだ。

「私にできることがあったら手伝いますから仰ってください」

「ありがとう」

 自分の席に戻る有野の後ろ姿を見ながら、またぼんやりとMIYAのことを思い出す。

 ────もっと、日向さんのことが知りたいんです。

 あんなふうに言われて勘違いしない男がいるだろうか? 交際経験が少ない
わけではないが、彼女の言葉にはそれだけの魅力があった。

 だが、それに乗ったら駄目だ。もう少し年が若ければあのまま彼女の言葉を聞いていたかもしれないが、それはできない。

 自分はファンでいるぐらいがちょうどいい。この恋はきっと彼女を不幸にしてしまう。だから、これでいいのだ。
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