おじさんには恋なんて出来ない
 それからしばらくMIYAのライブに行かなくなった。

 ストリート活動も、やっていることは確認したが近くを通るだけでそばで聞くことはしなかった。あんな言い方をして会いづらい気持ちもあったし、気持ちが揺らぐが怖かった。

 麗かな日曜日。MIYAは今日も活動しているらしい。久しぶりにブログを見ると、ライブ情報と一緒にストリート情報が書かれていた。

 だが、見に行くつもりはない。

 辰美は買ったばかりのコンポをつけ、MIYAのCDを流した。直接見に行くことはできないが、これぐらいなら許して欲しい。

 穏やかなメロディーが流れてくる。辰美はふと、スピーカーの方を見つめた。

 この曲はこんな音だっただろうか。もっと明るい曲だったように思う。しかし今はなんとも切なくて、聞いていて寂しくさせた。

 そう思うのは自分の気持ちが落ち込んでいるからかもしれない。MIYAの演奏を聞きに行くこともできず、こんなところで一人寂しくCDを聞いているのだから。

 寂しい時は寂しく聞こえるし、楽しい時は楽しく聞こえる。だからきっと、MIYAと初めて会った時は、「慰められたい」と思っていた。だから慰められた。

 そして今は、どう感じるだろうか。

 ────もう一度、彼女の演奏が聴きたい。

 だがそれは許されないだろう。行けば自分の気持ちがどうなるかは分かっていた。

 期待などしない方がいい。雪美のようにガッカリさせるのは嫌だ。

 けれど。それでも。MIYAのピアノが聴きたい。聞いて、今度自分はどう思うのか知りたい。自分が何を求めているのか知りたい。

 辰美は立ち上がり、玄関へ急いだ。
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