おじさんには恋なんて出来ない
第十一話 やきもちは誰のもの
 美夜はスマホを握りしめ、溜息をついた。

 一時間ほど前にライブが終わり、ようやく会場を出たので辰美にメッセージを入れたが、返事はまだない。

 まだ家に帰っていないのだろうか。それはもしかしてあの女性と────。

 そんな妄想を慌てて振り払う。電子ピアノを背負って駅に向かった。

 辰美とあの女性がライブに来ることは知っていた。辰美が二人分席を予約したからだ。

 しかし部下が来るとは聞いていたが、想像していた部下とは違った。

 辰美がどんなふうに仕事をしているかは知らない。話には聞いているが、きっと慕われているのだろうと思っていた。

 その想像通り、彼の部下は辰美を慕っているように見えた。見えたのだが────。

 ────気のせいかな。ううん、それにしてはちょっと距離が近かったような……。

 結局辰美から返事がないまま家に着いてしまった。どうにもスマホばかり気になるので、美夜はテレビをつけることにした。

『浮気騒動が報じられた俳優の的場賢治さん。昨日報道で今後の活動について────』

 たまたま付けたチャンネルでは芸能人の浮気騒動が報じられていた。

 なんとなく嫌に思った美夜はすぐにチャンネルを変えた。画面を上に向けて置いたスマホには、まだ通知がない。

 ────考えすぎ。辰美さんはそんな人じゃない。

 第一、辰美が離婚した原因は元妻の浮気だ。それで傷ついた人が浮気なんかするだろうか。

 ピピピ、と音が鳴った。光ったスマホの画面には辰美の名前と、メッセージの一文が表示されている。美夜は思わず飛びついた。

『お疲れ様。今日の演奏もとても良かったよ。さっきまで部下と食事していたから、これから帰るところだ。美夜さんはもう会場を出た?』

 ────出たどころか、もう家に帰ってます。

 連絡が来たことは嬉しいが、なんとなく素直に喜べない。

 辰美は今まであの女性と食事していたのだ。そう思うと心の中が薄暗い気持ちでいっぱいになる。

 辰美はきっとそんなつもりじゃない。食事してきたとわざわざ言うぐらいだ。やましいことはないのだろう。けれど────。

 なんとなく嫌な予感が働くのだ。第六感とでもいうのだろうか。あの女性を見ると、心がざわつく。辰美の思いよりもむしろあの女性の方が────。
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