おじさんには恋なんて出来ない
美夜から返事がないまま次の日になった。
辰美は朝のメッセージを送ったが、やはり既読はつかないままだ。会社に着くまでの間何度もスマホを確認したが、返事は来なかった。
────もしかして、忙しいっていうのは口実で、俺のことが嫌になったんだろうか。
ふと、そんなことを考えてしまう。何が悪かったのか考えたが、思い当たることが多すぎた。
付き合ったのに堂々と出来ないことだろうか。それともいまだに抱いていないことだろうか。デートの回数が少なすぎる? ライブで挨拶しなかったこと? キリがない。
とにかく、一度美夜に会いに行ってみよう。そこで話をして、聞いてみないと分からない。
デスクに着くと、机の上に見慣れないものが置いてあった。お菓子のパッケージだ。誰かのお土産だろうか。それと、その下にビニールの包みが置いてある。
店のショッパーのような袋の中を確かめると、CDが入っていた。英語で書かれているが、知らないアーティストだ。一体誰が置いたのだろう。
辰美がそれを持って辺りを見回すと、席に着いていた有野が「あ」と声を上げた。
「あ、課長。それ……」
「ああ、これ、誰が置いたかわかるかな」
「私です。実家からお菓子が送られて来たので、みんなにお裾分けしようと思って」
「そうだったのか。わざわざすまないな。けど、このCDは……」
「えーっと、それ、ピアノの曲ばっかり集めたオムニバスなんです。この間買って、すごくよかったのでもしよかったらどうかなって。ほら、課長ピアノにハマってるから……」
それでわざわざ置いてくれたのか。なんだか、有野の中で自分はピアノ好きになっているらしい。
実際はピアノが好きというわけではなく、『MIYA』の曲が好きなのだが。それを説明するのも手間だし、わざわざ持って来てくれたのに失礼な真似はできない。
「わざわざすまないな」
「その中に入ってる台湾のアーティストさんがすっごくいいんです。ぜひ聞いてください」
「へえ……」
パッケージの裏側を見る。色々アーティストがいるようだが、有野はその台湾のアーティストがお気に入りらしい。
「何見てるんですか?」
横から上坂が覗き込む。どうやら、辰美が持っているCDが気になったらしい。
「ああ、有野くんがピアノのCDを貸してくれてね」
「えっ、有野さんもピアノ聞くんですか。意外ですね〜前はバンドが好きって言ってませんでした?」
「バンドも好きだけどピアノも聴くようになったの! 上坂くんも娘さんがピアノ習ってるんでしょ? ちょっと聞いてみたら?」
「いやー僕はいいです。落ち着く曲聴いてると眠くなって来ちゃうんでー……」
上坂は苦笑いを浮かべながら席に着いた。
一般的な意見だ。上坂のような若い男がピアノを聴くようには見えない。彼ぐらいの年頃なら流行りのアイドルやバンドの曲を聴く方が楽しいはずだ。
「ありがとう、有野くん。また家に帰って聴いてみるよ」
「はい! 是非」
だが、正直ピアノを聴いているどころではない。美夜と会わなければ。
辰美は朝のメッセージを送ったが、やはり既読はつかないままだ。会社に着くまでの間何度もスマホを確認したが、返事は来なかった。
────もしかして、忙しいっていうのは口実で、俺のことが嫌になったんだろうか。
ふと、そんなことを考えてしまう。何が悪かったのか考えたが、思い当たることが多すぎた。
付き合ったのに堂々と出来ないことだろうか。それともいまだに抱いていないことだろうか。デートの回数が少なすぎる? ライブで挨拶しなかったこと? キリがない。
とにかく、一度美夜に会いに行ってみよう。そこで話をして、聞いてみないと分からない。
デスクに着くと、机の上に見慣れないものが置いてあった。お菓子のパッケージだ。誰かのお土産だろうか。それと、その下にビニールの包みが置いてある。
店のショッパーのような袋の中を確かめると、CDが入っていた。英語で書かれているが、知らないアーティストだ。一体誰が置いたのだろう。
辰美がそれを持って辺りを見回すと、席に着いていた有野が「あ」と声を上げた。
「あ、課長。それ……」
「ああ、これ、誰が置いたかわかるかな」
「私です。実家からお菓子が送られて来たので、みんなにお裾分けしようと思って」
「そうだったのか。わざわざすまないな。けど、このCDは……」
「えーっと、それ、ピアノの曲ばっかり集めたオムニバスなんです。この間買って、すごくよかったのでもしよかったらどうかなって。ほら、課長ピアノにハマってるから……」
それでわざわざ置いてくれたのか。なんだか、有野の中で自分はピアノ好きになっているらしい。
実際はピアノが好きというわけではなく、『MIYA』の曲が好きなのだが。それを説明するのも手間だし、わざわざ持って来てくれたのに失礼な真似はできない。
「わざわざすまないな」
「その中に入ってる台湾のアーティストさんがすっごくいいんです。ぜひ聞いてください」
「へえ……」
パッケージの裏側を見る。色々アーティストがいるようだが、有野はその台湾のアーティストがお気に入りらしい。
「何見てるんですか?」
横から上坂が覗き込む。どうやら、辰美が持っているCDが気になったらしい。
「ああ、有野くんがピアノのCDを貸してくれてね」
「えっ、有野さんもピアノ聞くんですか。意外ですね〜前はバンドが好きって言ってませんでした?」
「バンドも好きだけどピアノも聴くようになったの! 上坂くんも娘さんがピアノ習ってるんでしょ? ちょっと聞いてみたら?」
「いやー僕はいいです。落ち着く曲聴いてると眠くなって来ちゃうんでー……」
上坂は苦笑いを浮かべながら席に着いた。
一般的な意見だ。上坂のような若い男がピアノを聴くようには見えない。彼ぐらいの年頃なら流行りのアイドルやバンドの曲を聴く方が楽しいはずだ。
「ありがとう、有野くん。また家に帰って聴いてみるよ」
「はい! 是非」
だが、正直ピアノを聴いているどころではない。美夜と会わなければ。