おじさんには恋なんて出来ない
第十四話 Gift
旅行から戻って、美夜は度々辰美のことを思い出してはニヤけた。詩音に何度か指摘されたが、緩んだ口元はなかなか元に戻らない。
────いけないいけない。これから打ち合わせなんだからちゃんとしないと。
今日はレストランでの演奏の仕事を振ってくれている田村オーナーと会うことになっていた。場所は彼が運営しているレストランだ。
田村は若いが豪快な人物で、若く経験のない美夜を買ってくれていた。今日は仕事のことで相談があると言われやってきたのだが、まだ彼は来ていないようだ。美夜は店の前で何度かスマホの時刻を眺めた。
しばらくして、向こうから白いシャツを着た男が歩いてきた。田村は出会った時と同じく愛想のいい笑みを浮かべ挨拶した。
「どうも。お久しぶりですね」
「こちらこそ、お久しぶりです」
「立ち話もなんですから、どうぞ」
案内され、店の中へ入る。今日待ち合わせた店は美夜が演奏をしている店とは違う、別の店だった。普段演奏をしている店はもっと大人っぽムーディな雰囲気だが、ここは明るく開放的な雰囲気だ。
田村は店の人間と少し話をして、窓際の席に腰掛けた。
「ここはサラダが美味しいですよ」
そう言われたので、美夜はサラダプレートを頼んだ。食事を頼んで少しして、田村は話し始めた。
「それで、今日呼んだわけなんですが……ミヤさん、サポートとかって普段やったりしてますか?」
それは思いがけない質問だった。
「サポート、ですか?」
「はい。ピアノの」
美夜は基本的にソロで活動していた。頼まれれば知り合いのサポートでライブに出演することもあるが、そう多くはない。
「何回かはありますけど……」
そう答えると、田村は「そうですか!」と嬉しそうに頷く。
「実は、ミヤさんにサポートをお願いしたくて」
「私に?」
「以前もご説明したと思いますが、私はこういう店の経営と並行してアーティストのプロデュースもやっているんです。それで今私が猛プッシュしてる女の子がいて、その子が今度『アクトプレイズ』でライブすることになったんです」
「アクトプレイズですか」
美夜はつい大きな声になった。『アクトプレイズ』は都内ではやや大きめのライブハウスだ。キャパは五百人ほど。当然それだけの客を入れられない美夜は一度も使ったことがない。
だが、話で聞く限り設備がよくてバックもある程度融通してくれるそうだ。もちろん、使ったことのない美夜には関係のない話だが。
「まるで経験なしって子だと困るんですが、経験ありなら是非お願いしたいです」
「え、でも……私でいいんですか?」
「その子、結構人見知りする子なんです。今流行りのボカロとか歌う感じの子なんですけど……サポートはできたら女の子がいいって言われて。それでミヤさんに話を振ったわけです。実力はうちの店の演奏で分かっていますから」
サポートとはいえ、仕事がもらえることは人脈が少ない美夜には大変に有り難い話だった。一人でやっているといつかは限界が来る。多少は違う畑に飛び込まないと来る仕事も来ない。多くの人に知ってもらうためには人前に出なければ話にならない。
「ありがとうございます。是非、お受けしたいです」
「こちらこそありがとう。何回かリハーサルもしないといけないだろうから、スケジュールの詳細は追って連絡します」
それからギャラの話や仕事の話を少しして、食事は和やかに終わった。
そのアーティストとの相性が悪くなければライブはうまくいくだろう。あとは美夜の技術にかかっている。
────辰美さんと一緒に食事したおかげかな。
偶然ではあるが、辰美と一緒にあのレストランに行かなければこの仕事はもらえなかった。そう思うと一つの縁だ、無下にはできない。
────いけないいけない。これから打ち合わせなんだからちゃんとしないと。
今日はレストランでの演奏の仕事を振ってくれている田村オーナーと会うことになっていた。場所は彼が運営しているレストランだ。
田村は若いが豪快な人物で、若く経験のない美夜を買ってくれていた。今日は仕事のことで相談があると言われやってきたのだが、まだ彼は来ていないようだ。美夜は店の前で何度かスマホの時刻を眺めた。
しばらくして、向こうから白いシャツを着た男が歩いてきた。田村は出会った時と同じく愛想のいい笑みを浮かべ挨拶した。
「どうも。お久しぶりですね」
「こちらこそ、お久しぶりです」
「立ち話もなんですから、どうぞ」
案内され、店の中へ入る。今日待ち合わせた店は美夜が演奏をしている店とは違う、別の店だった。普段演奏をしている店はもっと大人っぽムーディな雰囲気だが、ここは明るく開放的な雰囲気だ。
田村は店の人間と少し話をして、窓際の席に腰掛けた。
「ここはサラダが美味しいですよ」
そう言われたので、美夜はサラダプレートを頼んだ。食事を頼んで少しして、田村は話し始めた。
「それで、今日呼んだわけなんですが……ミヤさん、サポートとかって普段やったりしてますか?」
それは思いがけない質問だった。
「サポート、ですか?」
「はい。ピアノの」
美夜は基本的にソロで活動していた。頼まれれば知り合いのサポートでライブに出演することもあるが、そう多くはない。
「何回かはありますけど……」
そう答えると、田村は「そうですか!」と嬉しそうに頷く。
「実は、ミヤさんにサポートをお願いしたくて」
「私に?」
「以前もご説明したと思いますが、私はこういう店の経営と並行してアーティストのプロデュースもやっているんです。それで今私が猛プッシュしてる女の子がいて、その子が今度『アクトプレイズ』でライブすることになったんです」
「アクトプレイズですか」
美夜はつい大きな声になった。『アクトプレイズ』は都内ではやや大きめのライブハウスだ。キャパは五百人ほど。当然それだけの客を入れられない美夜は一度も使ったことがない。
だが、話で聞く限り設備がよくてバックもある程度融通してくれるそうだ。もちろん、使ったことのない美夜には関係のない話だが。
「まるで経験なしって子だと困るんですが、経験ありなら是非お願いしたいです」
「え、でも……私でいいんですか?」
「その子、結構人見知りする子なんです。今流行りのボカロとか歌う感じの子なんですけど……サポートはできたら女の子がいいって言われて。それでミヤさんに話を振ったわけです。実力はうちの店の演奏で分かっていますから」
サポートとはいえ、仕事がもらえることは人脈が少ない美夜には大変に有り難い話だった。一人でやっているといつかは限界が来る。多少は違う畑に飛び込まないと来る仕事も来ない。多くの人に知ってもらうためには人前に出なければ話にならない。
「ありがとうございます。是非、お受けしたいです」
「こちらこそありがとう。何回かリハーサルもしないといけないだろうから、スケジュールの詳細は追って連絡します」
それからギャラの話や仕事の話を少しして、食事は和やかに終わった。
そのアーティストとの相性が悪くなければライブはうまくいくだろう。あとは美夜の技術にかかっている。
────辰美さんと一緒に食事したおかげかな。
偶然ではあるが、辰美と一緒にあのレストランに行かなければこの仕事はもらえなかった。そう思うと一つの縁だ、無下にはできない。