おじさんには恋なんて出来ない
第十五話 いけない恋
テーブルの上で咲く花がエアコンの暖房で微かに揺れている。白と桃色の小さな花は美夜の目の前で微笑んでいるようだった。
クリスマスの日、美夜はライブが終わった後にスタッフから当日ファンが持ってきて差し入れを受け取った。
差し入れで送られるものは大体決まっている。美容グッズやお菓子が大半。たまに某コーヒーショップの金券。服なんかをもらうこともある。あとは、花だ。
クリスマスということもあって、色とりどりのラッピングが施されたプレゼントの中、美夜は一番最初にそれに視線がいった。
貰った花束はいくつかあった。赤い薔薇の花束。可愛らしい桃色の花束。そして、この小さな花を集めた花束。
花束にはカードが付いていた。「MIYAさんへ ご出演おめでとうございます」。名前は書かれていなかったが、辰美だとすぐに分かった。
その日は打ち上げがあって辰美には会えなかったが、電話でしっかりとお礼を伝えた。付き合って始めてのクリスマスにライブなんて────と、辰美ががっかりしていないか少し心配だったが、辰美は嬉しそうだった。
花を触ると、少しカサカサとした感触がした。調べると、ドライフラワーにしたら長持ちするようだ。どれくらい保つか分からないが、できるだけ、長く飾っていたい。
年末年始の間、美夜は辰美と過ごした。
久しぶりに二人でゆっくりした。家でのんびり映画を見たり、二人でスーパーに行ったり、初詣に行ったりと、非常に充実した休みだった。
ただ、いつまでも恋人気分のままではいられない。正月が明けると、美夜は仕事に勤しんだ。
有難いことに先日ライブに呼んでくれたアーティストの女の子が、また別のライブに誘ってくれたのだ。先日のライブは客入りも上々、評判も良かった。関係者とも色々話すことができて、仕事の幅が広がったように思う。
だからもう少しできることの幅を広げようと、家の設備を変える計画を立てた。
現時点は特に防音等もしておらず、ピアノ一台とヘッドフォンで練習しているが、いつまでもそれではいけないと、先日田村オーナーに言われた。この時代、動画配信なんかも視野に言われないと人を増やすのは難しい。
だから家で動画配信ないし撮影できるような設備を整えようと思ったのだが、美夜は機械が得意ではない。パソコンぐらいなら使えるが、せいぜいメールを見たり動画を見たり、その程度だ。
しかし先日の打ち上げで色々教わった。とりあえず足りないものは買って、慣れながらやっていくしかない。
金はかかるし大変だが、美夜は楽しかった。少しは自分も変わっている。プラスの方向に向かっていると思えばやる気も出た。
────さてと、そろそろバイト行かないと。
仕事は忙しくなったのに、バイトだけは変わらない。いずれは辞めなければならないが、詩音と離れるのは少し寂しい気もする。
だがきっと、まだまだ先のことだろう。
荷物を持って家を出る。エントランスに降りたところで、ふとなんの気なしに郵便受けの方を見た。美夜の部屋番号が書かれたポストから茶色の封筒がはみ出ていた。
美夜は引き返し、ポストのロックを外して封筒を取り出した。
だが、それは奇妙な封筒だった。差出人も、送り先も書かれていない。無地の茶封筒だ。コンビニの文具売り場に置かれているような、オーソドックスな茶封筒。
一目でおかしいと思った。手で封筒の端を破って中を見る。中には一枚の紙が入っていた。
「え……」
その紙を見た瞬間全身を悪寒のようなものが襲った。身体中の細胞がざわざわと音を立てて、危険信号を鳴らしている。
美夜はしばらく動けなかった。告知した時間には現場に行かなければならないのに、足が地面に張り付いたように動かなかった。
クリスマスの日、美夜はライブが終わった後にスタッフから当日ファンが持ってきて差し入れを受け取った。
差し入れで送られるものは大体決まっている。美容グッズやお菓子が大半。たまに某コーヒーショップの金券。服なんかをもらうこともある。あとは、花だ。
クリスマスということもあって、色とりどりのラッピングが施されたプレゼントの中、美夜は一番最初にそれに視線がいった。
貰った花束はいくつかあった。赤い薔薇の花束。可愛らしい桃色の花束。そして、この小さな花を集めた花束。
花束にはカードが付いていた。「MIYAさんへ ご出演おめでとうございます」。名前は書かれていなかったが、辰美だとすぐに分かった。
その日は打ち上げがあって辰美には会えなかったが、電話でしっかりとお礼を伝えた。付き合って始めてのクリスマスにライブなんて────と、辰美ががっかりしていないか少し心配だったが、辰美は嬉しそうだった。
花を触ると、少しカサカサとした感触がした。調べると、ドライフラワーにしたら長持ちするようだ。どれくらい保つか分からないが、できるだけ、長く飾っていたい。
年末年始の間、美夜は辰美と過ごした。
久しぶりに二人でゆっくりした。家でのんびり映画を見たり、二人でスーパーに行ったり、初詣に行ったりと、非常に充実した休みだった。
ただ、いつまでも恋人気分のままではいられない。正月が明けると、美夜は仕事に勤しんだ。
有難いことに先日ライブに呼んでくれたアーティストの女の子が、また別のライブに誘ってくれたのだ。先日のライブは客入りも上々、評判も良かった。関係者とも色々話すことができて、仕事の幅が広がったように思う。
だからもう少しできることの幅を広げようと、家の設備を変える計画を立てた。
現時点は特に防音等もしておらず、ピアノ一台とヘッドフォンで練習しているが、いつまでもそれではいけないと、先日田村オーナーに言われた。この時代、動画配信なんかも視野に言われないと人を増やすのは難しい。
だから家で動画配信ないし撮影できるような設備を整えようと思ったのだが、美夜は機械が得意ではない。パソコンぐらいなら使えるが、せいぜいメールを見たり動画を見たり、その程度だ。
しかし先日の打ち上げで色々教わった。とりあえず足りないものは買って、慣れながらやっていくしかない。
金はかかるし大変だが、美夜は楽しかった。少しは自分も変わっている。プラスの方向に向かっていると思えばやる気も出た。
────さてと、そろそろバイト行かないと。
仕事は忙しくなったのに、バイトだけは変わらない。いずれは辞めなければならないが、詩音と離れるのは少し寂しい気もする。
だがきっと、まだまだ先のことだろう。
荷物を持って家を出る。エントランスに降りたところで、ふとなんの気なしに郵便受けの方を見た。美夜の部屋番号が書かれたポストから茶色の封筒がはみ出ていた。
美夜は引き返し、ポストのロックを外して封筒を取り出した。
だが、それは奇妙な封筒だった。差出人も、送り先も書かれていない。無地の茶封筒だ。コンビニの文具売り場に置かれているような、オーソドックスな茶封筒。
一目でおかしいと思った。手で封筒の端を破って中を見る。中には一枚の紙が入っていた。
「え……」
その紙を見た瞬間全身を悪寒のようなものが襲った。身体中の細胞がざわざわと音を立てて、危険信号を鳴らしている。
美夜はしばらく動けなかった。告知した時間には現場に行かなければならないのに、足が地面に張り付いたように動かなかった。