おじさんには恋なんて出来ない
辰美は仕事終わりに渋谷に立ち寄った。普段は理由がなければ寄らない場所だが、今日は用事があった。
先日とは違う場所にそのピアニストはいた。着いた時はちょうど休憩していたのか、ピアノは弾いていなかった。
通行人に邪魔にならないような位置に立ち、MIYAを眺める。辰美はやはり、彼女は綺麗だな。と改めて思った。都会だから綺麗な人は多いと思うが、MIYAは一般人よりも遥かに綺麗な顔立ちをしていた。
やがて演奏が始まった。夕方の渋谷は忙しなく、相変わらず騒がしいが、MIYAの弾く曲は穏やかな川にようにゆっくりとしている。
────これはCDに入っていた曲だな。聴きながら、辰美は知った曲が流れてなんだか嬉しくなった。あれから家にいる時はずっとMIYAの曲を流したままにしていた。そのおかげか、知らない間に覚えてしまったようだ。
こんな雑踏でなく、広いホールで弾かせてやればもっと感動的なものになるに違いない。
曲が終わると、辰美は先日と同じように電子ピアノの前に置かれた箱の中に千円札を三枚入れた。その金額にしたのはMIYAのライブのチケット代と同じだからだ。
MIYAは辰美を見て、あっと驚いたあと礼を言った。
「ありがとうございます。この間CDを買ってくださった方ですよね」
「あ……すみません。少ないですが」
「とんでもないです。この間もすごく嬉しかったです」
屈託のないMIYAの笑顔を見て、辰美は素直で優しそうな子だなと思った。
「あの、今度ライブに行ってもいいですか?」
「え、勿論です! えっと、チケット持ってきていますけど────あ、ウェブからも予約できます」
「じゃあ、せっかくだからここで買っていきます」
MIYAがチケットをケースから取り出した。日にちも場所も全て違う。だが、ほとんど夜だから仕事終わりに行くことができた。辰美は一番日付が近いものを選んだ。
「あの、手ぶらで行っていいんでしょうか。こういうのに行ったことがなくて」
「勿論です。あ、ワンドリンク制なのでドリンクはもらえます。受付でドリンクチケットをもらってください」
「分かりました。ありがとうございます」
もう少し聞いていたいところだが、家に帰ってやることもあるのでそのまま帰ることにした。背を向けるとまたMIYAの演奏が聞こえてきて、立ち止まりたくなった。
ライブに行くのは初めてだが、MIYAのもああ言っていたし、気にすることはないだろう。
ライブは金曜日の夜だ。その日はきっと仕事が捗るに違いない。
先日とは違う場所にそのピアニストはいた。着いた時はちょうど休憩していたのか、ピアノは弾いていなかった。
通行人に邪魔にならないような位置に立ち、MIYAを眺める。辰美はやはり、彼女は綺麗だな。と改めて思った。都会だから綺麗な人は多いと思うが、MIYAは一般人よりも遥かに綺麗な顔立ちをしていた。
やがて演奏が始まった。夕方の渋谷は忙しなく、相変わらず騒がしいが、MIYAの弾く曲は穏やかな川にようにゆっくりとしている。
────これはCDに入っていた曲だな。聴きながら、辰美は知った曲が流れてなんだか嬉しくなった。あれから家にいる時はずっとMIYAの曲を流したままにしていた。そのおかげか、知らない間に覚えてしまったようだ。
こんな雑踏でなく、広いホールで弾かせてやればもっと感動的なものになるに違いない。
曲が終わると、辰美は先日と同じように電子ピアノの前に置かれた箱の中に千円札を三枚入れた。その金額にしたのはMIYAのライブのチケット代と同じだからだ。
MIYAは辰美を見て、あっと驚いたあと礼を言った。
「ありがとうございます。この間CDを買ってくださった方ですよね」
「あ……すみません。少ないですが」
「とんでもないです。この間もすごく嬉しかったです」
屈託のないMIYAの笑顔を見て、辰美は素直で優しそうな子だなと思った。
「あの、今度ライブに行ってもいいですか?」
「え、勿論です! えっと、チケット持ってきていますけど────あ、ウェブからも予約できます」
「じゃあ、せっかくだからここで買っていきます」
MIYAがチケットをケースから取り出した。日にちも場所も全て違う。だが、ほとんど夜だから仕事終わりに行くことができた。辰美は一番日付が近いものを選んだ。
「あの、手ぶらで行っていいんでしょうか。こういうのに行ったことがなくて」
「勿論です。あ、ワンドリンク制なのでドリンクはもらえます。受付でドリンクチケットをもらってください」
「分かりました。ありがとうございます」
もう少し聞いていたいところだが、家に帰ってやることもあるのでそのまま帰ることにした。背を向けるとまたMIYAの演奏が聞こえてきて、立ち止まりたくなった。
ライブに行くのは初めてだが、MIYAのもああ言っていたし、気にすることはないだろう。
ライブは金曜日の夜だ。その日はきっと仕事が捗るに違いない。