【11/25書籍発売予定】契約外溺愛 ~呪われ猫伯爵に溺愛宣言されたが、勘違いする乙女心は既にない。……いえ、取り戻さなくて結構です!~
25 閲覧権と契約のため
明らかな拒否の態度に、ステラの心に罪悪感が広がっていくのがわかった。
「――不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」
契約で一応妻にしただけの魔女に、猫姿を隠すためとはいえスカートの中に入れられたのだ。
不快だろうし、失礼な対応だった。
よくよく考えれば走ってどこかに隠れてもらえば良かったのだろうが、慌てていたので隠すことしか考えられなかったのだ。
まったく、申し訳ないばかりである。
深々と頭を下げると、グレンが慌てた様子で首を振った。
「違う、そうじゃない。その、驚いただけで。……とにかく、ステラは悪くない」
その言葉に、ほっと胸を撫でおろす。
同時に何故ほっとしたのだろうと不思議になったが、理由が思い浮かばなかったので、気にしないことにした。
「高いところの本は、俺が戻すよ」
「いえ。梯子を取りに行けば問題ありません。お手数をおかけして申し訳ありませんでした」
面倒臭がらずに梯子を持ってきていれば、こんなことにはならなかった。
後悔先に立たずとは、まさにこのことである。
床に散らばった本を集めていると、グレンも本を拾い始めた。
「俺がいる時くらい、頼ってくれよ」
「はあ……?」
何だかよくわからないが、顧客であるグレンの希望は『頼られたい』ということなのだろう。
明らかな迷惑や酷い労働ではないのだから、ここは希望を叶えるのも務めだ。
「わかりました。では、この本を本棚の上から二段目に。こちらは隣の本棚の一番右端にお願いします」
説明をしながら二冊の本を手渡すと、残りの本を抱える。
すると、グレンはステラが抱えた本もすべて取り上げて運び出した。
びっくりして目を丸くするステラに、紅玉の瞳を細めてグレンが笑う。
「頼ってくれるんだろう? 妻に重い本を持たせられない」
「はあ……?」
妻。
……そうか。
公の場で妻に重い本を持たせる夫と思われてはいけないということか。
グレンの謎の行動と言動の理由がわかりスッキリしたステラは、残った一冊を抱えた。
「では、お言葉に甘えます。……貴族って、大変ですね」
契約上の仮初めの関係とはいえ、傍目には夫婦だ。
だからこそ、周囲の目にも気を配らなければいけない。
まだまだ気をつけなければいけないことが沢山ありそうだ。
「それにしても、やはり司書の態度は悪いままだな」
「大丈夫です。ノートを取られない今のうちに、しっかり勉強して模写しておかなければいけません」
何せ六年ぶんのノートが消えたのだから、いくら書いても追いつかない。
本を片付け終えて机に戻ると、ステラは荷物を片付け始め、グレンは椅子に腰かけた。
「別に急がなくても、閲覧権は手に入るんだから大丈夫だろう?」
「まあ、そうですが」
確かにそうなのだが、貴族でなくなれば司書はノートを取り上げるようになるだろう。
そうなると偽物を用意する手間がかかるし、やりとりだって面倒臭くなる。
それに……あまり考えたくはないが、グレンの気持ちが変われば閲覧権は手に入らなくなる。
何にしても、今が効率よく模写できる頑張り時なのだ。
ちらりと見てみればグレンの表情が曇っている気がするが、そんなに司書の態度が気に入らなかったのだろうか。
「……ステラは、閲覧権のために頑張っているんだよな」
「もっと学んで薬師としての腕を上げたいですし。それに、呪いについて学べば、もう少し効率のいい中和方法が見つかるかもしれませんから」
すると、グレンは何故かきょとんとしてステラを見つめた。
「その中和というのは……俺の?」
「色々試した方がいいかと思ったのですが……すみません。余計なことでしたか?」
グレンがステラに依頼したのは、あくまでも中和。
必要以上のことをして弊害が出ないとも限らないので、やめておいた方が良かっただろうか。
心配になって少しうつむくと、ステラの手をグレンのそれが包み込んだ。
「俺のために、わざわざ……ありがとう」
至近距離で紅玉の瞳に見つめられ、驚いたステラは慌てて手を振りほどく。
「い、いえ。これも契約の内ですし」
落ち着こうと治癒院で鍛えた営業スマイルを浮かべると、グレンは何故か少し寂しそうに笑う。
「……契約、か」
「グレン様?」
きちんと笑顔を返したつもりだが、何か不愉快だったのだろうか。
以前にも顔が不愉快だとか笑顔が不自然といわれたし、今の表情も良くなかったのかもしれない。
ステラの視線に気付いたらしいグレンは、にこりと微笑む。
「今度、夜会があるから、同行してもらいたい。ドレスも作らないといけないな」
「この間作ったものでいいのではありませんか?」
何せ、あの一回しか着ていないのだから、もったいない。
だが、グレンは困ったように首を振る。
「あれは、婚約者としてのステラに贈った。今は、妻だ」
「……ああ。未婚と既婚でデザインが異なるのでしょうか」
「屋敷に仕立て屋を呼んでもいいが、せっかくだから一緒に店に行こうか」
面倒だとは思うが、貴族とはそういうものなのだろう。
これに関してはステラの気持ちよりもグレンの体面の方が優先されるので、仕方がない。
ステラがうなずくと、グレンは楽しそうに微笑んだ。
「――不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありませんでした」
契約で一応妻にしただけの魔女に、猫姿を隠すためとはいえスカートの中に入れられたのだ。
不快だろうし、失礼な対応だった。
よくよく考えれば走ってどこかに隠れてもらえば良かったのだろうが、慌てていたので隠すことしか考えられなかったのだ。
まったく、申し訳ないばかりである。
深々と頭を下げると、グレンが慌てた様子で首を振った。
「違う、そうじゃない。その、驚いただけで。……とにかく、ステラは悪くない」
その言葉に、ほっと胸を撫でおろす。
同時に何故ほっとしたのだろうと不思議になったが、理由が思い浮かばなかったので、気にしないことにした。
「高いところの本は、俺が戻すよ」
「いえ。梯子を取りに行けば問題ありません。お手数をおかけして申し訳ありませんでした」
面倒臭がらずに梯子を持ってきていれば、こんなことにはならなかった。
後悔先に立たずとは、まさにこのことである。
床に散らばった本を集めていると、グレンも本を拾い始めた。
「俺がいる時くらい、頼ってくれよ」
「はあ……?」
何だかよくわからないが、顧客であるグレンの希望は『頼られたい』ということなのだろう。
明らかな迷惑や酷い労働ではないのだから、ここは希望を叶えるのも務めだ。
「わかりました。では、この本を本棚の上から二段目に。こちらは隣の本棚の一番右端にお願いします」
説明をしながら二冊の本を手渡すと、残りの本を抱える。
すると、グレンはステラが抱えた本もすべて取り上げて運び出した。
びっくりして目を丸くするステラに、紅玉の瞳を細めてグレンが笑う。
「頼ってくれるんだろう? 妻に重い本を持たせられない」
「はあ……?」
妻。
……そうか。
公の場で妻に重い本を持たせる夫と思われてはいけないということか。
グレンの謎の行動と言動の理由がわかりスッキリしたステラは、残った一冊を抱えた。
「では、お言葉に甘えます。……貴族って、大変ですね」
契約上の仮初めの関係とはいえ、傍目には夫婦だ。
だからこそ、周囲の目にも気を配らなければいけない。
まだまだ気をつけなければいけないことが沢山ありそうだ。
「それにしても、やはり司書の態度は悪いままだな」
「大丈夫です。ノートを取られない今のうちに、しっかり勉強して模写しておかなければいけません」
何せ六年ぶんのノートが消えたのだから、いくら書いても追いつかない。
本を片付け終えて机に戻ると、ステラは荷物を片付け始め、グレンは椅子に腰かけた。
「別に急がなくても、閲覧権は手に入るんだから大丈夫だろう?」
「まあ、そうですが」
確かにそうなのだが、貴族でなくなれば司書はノートを取り上げるようになるだろう。
そうなると偽物を用意する手間がかかるし、やりとりだって面倒臭くなる。
それに……あまり考えたくはないが、グレンの気持ちが変われば閲覧権は手に入らなくなる。
何にしても、今が効率よく模写できる頑張り時なのだ。
ちらりと見てみればグレンの表情が曇っている気がするが、そんなに司書の態度が気に入らなかったのだろうか。
「……ステラは、閲覧権のために頑張っているんだよな」
「もっと学んで薬師としての腕を上げたいですし。それに、呪いについて学べば、もう少し効率のいい中和方法が見つかるかもしれませんから」
すると、グレンは何故かきょとんとしてステラを見つめた。
「その中和というのは……俺の?」
「色々試した方がいいかと思ったのですが……すみません。余計なことでしたか?」
グレンがステラに依頼したのは、あくまでも中和。
必要以上のことをして弊害が出ないとも限らないので、やめておいた方が良かっただろうか。
心配になって少しうつむくと、ステラの手をグレンのそれが包み込んだ。
「俺のために、わざわざ……ありがとう」
至近距離で紅玉の瞳に見つめられ、驚いたステラは慌てて手を振りほどく。
「い、いえ。これも契約の内ですし」
落ち着こうと治癒院で鍛えた営業スマイルを浮かべると、グレンは何故か少し寂しそうに笑う。
「……契約、か」
「グレン様?」
きちんと笑顔を返したつもりだが、何か不愉快だったのだろうか。
以前にも顔が不愉快だとか笑顔が不自然といわれたし、今の表情も良くなかったのかもしれない。
ステラの視線に気付いたらしいグレンは、にこりと微笑む。
「今度、夜会があるから、同行してもらいたい。ドレスも作らないといけないな」
「この間作ったものでいいのではありませんか?」
何せ、あの一回しか着ていないのだから、もったいない。
だが、グレンは困ったように首を振る。
「あれは、婚約者としてのステラに贈った。今は、妻だ」
「……ああ。未婚と既婚でデザインが異なるのでしょうか」
「屋敷に仕立て屋を呼んでもいいが、せっかくだから一緒に店に行こうか」
面倒だとは思うが、貴族とはそういうものなのだろう。
これに関してはステラの気持ちよりもグレンの体面の方が優先されるので、仕方がない。
ステラがうなずくと、グレンは楽しそうに微笑んだ。