松川バーグ
石 田「キミ、バカ舌なんじゃないの?」
井 上「何てこと言うんですかっ、石田さん!も
う!謝って下さい」
石 田「だからお前はもう用が無いから帰れっ
て」
井 上「そういうわけにはいきません。三栗屋さ
んがバカ舌扱いされて黙ってられません
よ」
佐 藤「あ、そっち?」
石 田「フン。・・・マスター」
石田は立ち上がって松川の方に1歩寄
る。
松 川「はい」
石 田「この『松川バーグ』がソースからマスタ
ーの手作りでオリジナルだから決してキ
ミの子供の頃の思い出の味ではないっ
て、はっきり言ってやったらどう?」
三栗屋と井上もジッと松川を見つめる。
松 川「ええ。あ~、まぁ~」
全員の視線を感じてしどろもどろする松
川。
松 川「まぁ、何ていうか~、ねぇ、佐藤さん」
佐 藤「そうですね~。ああ、なんか立て込んで
きたんで、俺は帰りますね」
入り口に向かって行こうとする佐藤の肩
を正面から両手でがっちり掴んで小刻み
に首を振る松川。
松 川「ダメダメダメ。今帰っちゃ、絶対ダメ」
井上は石田の傍から離れ三栗屋の方に近
づく。
井 上「三栗屋さん。『松川バーグ』もYouTube
で紹介するんですか?」
三栗屋「それはマスター次第だね」
松 川「困ります、困ります!」
松川は必死の形相で大きく首を横に振
る。
三栗屋「どうしてですか?」
松 川「どうしてって・・・」
松川は縋るような目で佐藤を見る。
佐 藤「ああもうっ。ここはね、コーヒーの香り
を楽しんでもらう喫茶店なんですよ。ハ
ンバーグの店じゃないんでね。ね、マス
ター」
松 川「そうそう。そうなんですよ」
佐藤と松川が頷きあっていると、石田が
席を立って一番奥の井上が座っていたテ
ーブルに座り直す。
石 田「いいじゃないか、マスター。100万人だ
か何だか知れねーけど、紹介したらその
100万人に自分がバカ舌だって言うよう
なもんで、恥かくのは彼だ」
石田は遠くから右手を伸ばして三栗屋を
指差す。
三栗屋「バカ舌じゃない。絶対この味なんだ」
石 田「だから違うって言ってんだろ。そもそも
子供の頃に1回しか食った事が無いって
言ってなかったか?」
三栗屋「そうです」
石 田「そんなの、覚えてるわけないだろ」
三栗屋「覚えてるんです」
三栗屋は真っすぐ前を向いて遠い目をし
て語りだす。
三栗屋「あれは小学校1年生になったばかりの時
でした。緊張しいの僕は誰とも話が出来
ずに過ごしていました。そんな時、給食
でビーフシチューが出たんです。肉は固
かったんですが、ゴクッと飲んだシチュ
ーのあまりの美味しさに思わず『美味し
い!』って叫んでいました。普段喋らな
い僕が急に大きい声を上げたので皆驚い
たようでしたが、それをきっかけに一気
に喋れるようになって友達がたくさん出
来たんです」
佐 藤「ん~、なんかいい話」
三栗屋「だけど、それから3日後転校することに
なってしまって」
佐 藤「あらま」
三栗屋「それから何度か転校を繰り返しました
が、何処に行っても食の話をすることで
僕は友達を作ることが出来たんです」
佐 藤「へ~」
三栗屋「それで、もう一度あの時のビーフシチュ
ーの味を味わいたいと思って、探すつい
でにYouTubeを始めたんです」
佐 藤「なるほどね」
三栗屋「だから、僕の人生に彩を与えてくれたあ
の味を忘れるわけないんです」
三栗屋は石田の方を見る。
石 田「今の話自体は、絵本にでもすれば100冊
ぐらいは売れるかもだけどな」
佐 藤「さすが、作家視点」
石 田「給食で食べたんならそれはどこぞのシェ
フが作ったんじゃなくて、給食のおばち
ゃんが作ったんだろ。そんなもん探した
って見つかるわけねーじゃねーか。学校
へ聞きに行け、学校に」
石田の言葉に松川がハッとして佐藤をつ
つく。
佐 藤「痛い痛い。何ですか」
松 川「(小声で)佐藤さんのとこのソース、地
元の学校給食が取引先って言ってしたよ
ね」
佐 藤「ええ」
松 川「ひょっとしたらその取引先の学校だった
んじゃないですか。彼の小学校」
佐 藤「確かに、そうかも。ちょっと確認してみ
ます」
佐藤は咳払いしてから三栗屋に話しかけ
る。
佐 藤「う、うん。あ~三栗屋くんだったか
な?」
三栗屋「はい」
佐 藤「因みに三栗屋くんの通っていたその小学
校は何ていう小学校だったのかな?」
三栗屋「東京第4小学校です」
佐藤は目を大きく見開く。
佐 藤「俺と一緒だ」
石 田「じゃあやっぱりバカ舌決定だな」
井 上「どうしてですか?」
石 田「ここにいらっしゃるコーヒーメーカーさ
ん」
石田は佐藤の方にスッと腕を伸ばす。
井 上「何てこと言うんですかっ、石田さん!も
う!謝って下さい」
石 田「だからお前はもう用が無いから帰れっ
て」
井 上「そういうわけにはいきません。三栗屋さ
んがバカ舌扱いされて黙ってられません
よ」
佐 藤「あ、そっち?」
石 田「フン。・・・マスター」
石田は立ち上がって松川の方に1歩寄
る。
松 川「はい」
石 田「この『松川バーグ』がソースからマスタ
ーの手作りでオリジナルだから決してキ
ミの子供の頃の思い出の味ではないっ
て、はっきり言ってやったらどう?」
三栗屋と井上もジッと松川を見つめる。
松 川「ええ。あ~、まぁ~」
全員の視線を感じてしどろもどろする松
川。
松 川「まぁ、何ていうか~、ねぇ、佐藤さん」
佐 藤「そうですね~。ああ、なんか立て込んで
きたんで、俺は帰りますね」
入り口に向かって行こうとする佐藤の肩
を正面から両手でがっちり掴んで小刻み
に首を振る松川。
松 川「ダメダメダメ。今帰っちゃ、絶対ダメ」
井上は石田の傍から離れ三栗屋の方に近
づく。
井 上「三栗屋さん。『松川バーグ』もYouTube
で紹介するんですか?」
三栗屋「それはマスター次第だね」
松 川「困ります、困ります!」
松川は必死の形相で大きく首を横に振
る。
三栗屋「どうしてですか?」
松 川「どうしてって・・・」
松川は縋るような目で佐藤を見る。
佐 藤「ああもうっ。ここはね、コーヒーの香り
を楽しんでもらう喫茶店なんですよ。ハ
ンバーグの店じゃないんでね。ね、マス
ター」
松 川「そうそう。そうなんですよ」
佐藤と松川が頷きあっていると、石田が
席を立って一番奥の井上が座っていたテ
ーブルに座り直す。
石 田「いいじゃないか、マスター。100万人だ
か何だか知れねーけど、紹介したらその
100万人に自分がバカ舌だって言うよう
なもんで、恥かくのは彼だ」
石田は遠くから右手を伸ばして三栗屋を
指差す。
三栗屋「バカ舌じゃない。絶対この味なんだ」
石 田「だから違うって言ってんだろ。そもそも
子供の頃に1回しか食った事が無いって
言ってなかったか?」
三栗屋「そうです」
石 田「そんなの、覚えてるわけないだろ」
三栗屋「覚えてるんです」
三栗屋は真っすぐ前を向いて遠い目をし
て語りだす。
三栗屋「あれは小学校1年生になったばかりの時
でした。緊張しいの僕は誰とも話が出来
ずに過ごしていました。そんな時、給食
でビーフシチューが出たんです。肉は固
かったんですが、ゴクッと飲んだシチュ
ーのあまりの美味しさに思わず『美味し
い!』って叫んでいました。普段喋らな
い僕が急に大きい声を上げたので皆驚い
たようでしたが、それをきっかけに一気
に喋れるようになって友達がたくさん出
来たんです」
佐 藤「ん~、なんかいい話」
三栗屋「だけど、それから3日後転校することに
なってしまって」
佐 藤「あらま」
三栗屋「それから何度か転校を繰り返しました
が、何処に行っても食の話をすることで
僕は友達を作ることが出来たんです」
佐 藤「へ~」
三栗屋「それで、もう一度あの時のビーフシチュ
ーの味を味わいたいと思って、探すつい
でにYouTubeを始めたんです」
佐 藤「なるほどね」
三栗屋「だから、僕の人生に彩を与えてくれたあ
の味を忘れるわけないんです」
三栗屋は石田の方を見る。
石 田「今の話自体は、絵本にでもすれば100冊
ぐらいは売れるかもだけどな」
佐 藤「さすが、作家視点」
石 田「給食で食べたんならそれはどこぞのシェ
フが作ったんじゃなくて、給食のおばち
ゃんが作ったんだろ。そんなもん探した
って見つかるわけねーじゃねーか。学校
へ聞きに行け、学校に」
石田の言葉に松川がハッとして佐藤をつ
つく。
佐 藤「痛い痛い。何ですか」
松 川「(小声で)佐藤さんのとこのソース、地
元の学校給食が取引先って言ってしたよ
ね」
佐 藤「ええ」
松 川「ひょっとしたらその取引先の学校だった
んじゃないですか。彼の小学校」
佐 藤「確かに、そうかも。ちょっと確認してみ
ます」
佐藤は咳払いしてから三栗屋に話しかけ
る。
佐 藤「う、うん。あ~三栗屋くんだったか
な?」
三栗屋「はい」
佐 藤「因みに三栗屋くんの通っていたその小学
校は何ていう小学校だったのかな?」
三栗屋「東京第4小学校です」
佐藤は目を大きく見開く。
佐 藤「俺と一緒だ」
石 田「じゃあやっぱりバカ舌決定だな」
井 上「どうしてですか?」
石 田「ここにいらっしゃるコーヒーメーカーさ
ん」
石田は佐藤の方にスッと腕を伸ばす。