松川バーグ
    遠藤はカウンターの席に座る。
佐 藤「そっか。じゃ、俺は帰ろう」
    佐藤は笑顔で出ようとするが松川がガシ
    ッと佐藤の肩を掴む。
松 川「まだ何も策が無いんですから、帰しませ
    んよ」
佐 藤「あ~、でもカミさんが」
松 川「ダメです。策を練って下さいっ」
佐 藤「策って言われても、あいつが来たんじゃ
    ~・・・」
    力なく肩を落とす佐藤。
    三栗屋はカウンターの遠藤の隣に座る。
三栗屋「この匂いのするソース、東京第4小の給
    食で出てたのと同じ味だと思いません
    か?」
遠 藤「思いませんかって言うか、同じだよ」
三栗屋「ほらほらほら」
    三栗屋は石田を見る。
石 田「じゃあ何か?コーヒーメーカーさんがバ
    カ舌だって言うのか?」
    石田は松川に最初に座った入り口に近い
    テーブルの席に座らされた佐藤を指差
    す。
    石田が指差したのを見て遠藤が佐藤に話
    しかける。
遠 藤「佐藤。お前なんかさっきからコーヒーメ
    ーカーの人に間違われてるぞ」
石 田「・・・間違われてる?」
    天を仰ぐ佐藤。
    アタフタする松川。
松 川「(小声で)ど、どうしましょう?」
佐 藤「どうもこうも。あいつが来たからには、
    全て終わりです」
井 上「あの人、コーヒーメーカーさんじゃない
    んですか?」
    井上が遠藤に尋ねると遠藤は半笑いで答
    える。
遠 藤「違うよ。肉屋だよ」
石田・三栗屋・井上「肉屋ぁ???」
松 川「・・・肉屋ーーーーーーーーっ!!!」
    松川は驚き過ぎて佐藤から距離を取る。
石 田「肉屋ってどういうことだよ」
松 川「に、肉屋ってどういうことですかっ!」
    ワナワナと身震いしている松川。
遠 藤「そんな事よりマスター。コーヒー貰え
    る?」
松 川「そんな事じゃないんですよっ。これは
    『喫茶マツカワ』にとって一大事なんで
    すっ」
石 田「そりゃ、肉屋からコーヒー仕入れてたっ
    てことになると大問題だな」
    松川は心を落ち着けゆっくり佐藤に近づ
    くと後ろから優しく肩に手をかけて問い
    かける。
松 川「あなたは嫌々ながら仕方なく地元の学校
    給食ぐらいしか取引のない家業を継いだ
    三男坊のソース屋さんなんですよね?」
石田・三栗屋・井上「ソース屋ぁ???」
遠 藤「ん?それって、俺だけど」
松 川「っ!えーーーーーーっ!」
    松川は佐藤の肩から手を離して遠藤を見
    る。
佐 藤「あ~、終わった」
    佐藤はテーブルに両肘をついて両手で頭
    を抱える。
    石田が遠藤と佐藤を順に指を指す。
石 田「ってことは、こちらさんのソースに、こ
    ちらさんのハンバーグを入れて煮込んだ
    だけのハンバーグだってことか」
遠 藤「ですね」
石 田「マスター。ソースを作るところから手作
    りってのは何だったんだ?オリジナルで
    手作りってのはどこから来たんだ?」
    カウンターの隅で呆然と立っている松川
    を隠すように佐藤が立ちはだかって皆の
    方を見る。
佐 藤「マスターは悪くないんです。俺が9割、
    いや10割悪いんです」
松 川「佐藤さん・・・」
佐 藤「1年前に一度ここにコーヒーを飲みに来
    たことがあって。美味しかったんでまた
    来たいな~って思ったんですけどね。小
    さな肉屋やってるんでなかなかそんな暇
    もなくて。そんな時、幼馴染のこいつが
    家業のソース屋を継ぐために戻ってきた
    んで、閃いたんですよ。タマゴサンドし
    かまともに食べるものが無さそうだった
    この店に、ソースと肉持って行って煮込
    みハンバーグを作るように勧めてやって
    くれたら配達ついでにコーヒー飲めるか
    なって」
松 川「でも、なんで肉屋って言わないで、ソー
    ス屋って嘘ついたんですかっ」
    松川は佐藤の前へ回り込む。
佐 藤「それは、ソース屋のエピソードの方が引
    きが強いだろうなって思ったんで」
石 田「じゃ、コーヒーメーカーの人間だって言
    ったのは何だよ」
松 川「あ~、それは・・・」
    松川は石田に向き直る。
松 川「すみません。オリジナルじゃないっての
    がバレるのが怖くて嘘をつきました」
    松川は頭を下げる。
佐 藤「あっ、でも、煮込んでから1晩寝かせる
    ってのはマスターのオリジナルで間違い
    ないですから」
松 川「もういいんですよ、佐藤さん。私がもっ
    と早く良心の呵責に苛まれ、オリジナル
    からフェイドアウトしていればこんな事
    にはならなかったんですから」
佐 藤「マスター・・・」
    松川はいきなり三栗屋の膝に縋りつく。
松 川「お願いします!そういう事だから
    YouTubeに上げるのだけはやめておく
    れ~」
三栗屋「わ、わかりましたから」
松 川「ありがと、ありがとっ」
    松川は三栗屋に何度も頭を下げながら立
    ち上がる。
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