松川バーグ
三栗屋「僕としてはバカ舌じゃないって証明でき
    た事と」
    三栗屋は石田を見る。
石 田「フン」
三栗屋「懐かしい思い出の味に出会えたことで大
    満足ですから」
遠 藤「・・・今、ここで言っていいのかわかん
    ないけど、俺、ソース屋辞めることにし
    たから、ここにももう納品できなくなり
    ますよ」
遠藤以外全員「ええええーっ!」
佐 藤「どういう事だよっ。聞いてないよっ」
遠 藤「まだ決めたばっかりで誰にも言ってない
    からな。兄貴たちが継がないって言うか
    ら仕方なく継いだけどさぁ、やっぱ向い
    てないんだよ。そもそも俺、システムエ
    ンジニアだし。肉体労働的な事無理なん
    だよ。だから辞めることにした」
石 田「じゃあ、ここの煮込みハンバーグをはど
    うなるんだよ」
井 上「そうですよ。すごく美味しいのに」
石 田「僕の口はもうあのタマゴサンドには戻れ
    ねーぞ」
松 川「言い方・・・」
    三栗屋が立ち上がって遠藤を見る。
三栗屋「僕に継がせてくれませんか?」
三栗屋以外全員「ええええーっ!」
三栗屋「僕に継がせて下さいよ」
井 上「YouTubeはどうするんですか?」
三栗屋「元々いつか思い出の味と出会えたら止め
    ようと思ってたんだ」
遠 藤「本当に継いでくれるの?」
三栗屋「本当です」
遠 藤「何だか俺、すごくいいタイミングでここ
    に来たみたいだな」
佐 藤「最悪のタイミングで来たけどな」
遠 藤「宜しく頼むよ」
    遠藤は三栗屋の手を取って固く握手す
    る。
三栗屋「ありがとうございますっ。宜しくお願い
    しますっ」
    遠藤は深々と頭を下げる。
石 田「じゃ、とりあえず煮込みハンバーグは存
    続するって事だな」
井 上「良かったですね」
三栗屋「あ、じゃあやっぱりユーチューバーとし
    て最後にここを紹介させてくださいよ」
松 川「やめて、やめて、やめてっ。もうオリジ
    ナルとか手作りとか言いませんから」
三栗屋「わかってます。だから、こだわりの美味
    しいコーヒーを出す喫茶店だってことで
    紹介させてください」
松 川「三栗屋くん」
三栗屋「それとついでに、ソースを使った煮込み
    ハンバーグも美味しいって、逆にソース
    の宣伝させてもらえたら、ソース屋を継
    ぐ僕も助かるし、オリジナル感も消せま
    すよ」
松 川「なるほど。名案ですね」
    喜ぶ松川。
三栗屋「思い出の味に辿り着けたのもこの店のお
    陰なんですから」
佐 藤「良かったですね、マスター。俺も肩の荷
    が下りました」
    全員がニコニコしだしたのを見て石田が
    少し大きめの声を出す。
石 田「皆してなんか大団円みたいになっちゃっ
    てるけど、今までマスターのオリジナル
    だと思って食ってた僕への裏切りはどう
    してくれるんだ?」
佐 藤「(小声で)あ、厄介な人残ってた」
井 上「もういいじゃないですか、石田さん」
石 田「良かねーよ」
井 上「あっ、『松川バーグ』のレシピ分かった
    んですから、約束通り1週間以内に書き
    上げてくださいよっ」
石 田「何言ってんだよ。別にお前が聞き出した
    わけじゃないじゃねーか」
井 上「わかったんだから、同じことです。それ
    に石田さん、これ以上締め切り守らなか
    ったらもう、うちとは手を切ってもらお
    うって上司が言ってましたよ」
石 田「はぁ?」
井 上「いつまでも『これが三成』だけで大きい
    顏出来るって思わない方がいいですよ」
石 田「なっ・・・」
    絶句する石田に三栗屋が近づく。
三栗屋「『これが三成』って、あの10万部売れた
    『これが三成』ですか?」
石 田「何だよ。100万が10万をバカにしたいの
    か」
    三栗屋はカバンから急いで文庫本を取り
    出し、興奮気味に石田に見せる。
三栗屋「これっ、僕のバイブルなんですっ!」
    佐藤が三栗屋に近づき本のタイトルを読
    む。
佐 藤「『これが三成』。うそっ」
    三栗屋は石田のいるテーブルに本を置
    き、胸のポケットに刺していたペンを石
    田に差し出す。
三栗屋「サインしてくださいっ!」
井 上「うわっ。まじか」
石 田「どうしようかなぁ」
    石田は込み上げてくる笑みを押さえるよ
    うに腕を組む。
三栗屋「わかりました。YouTubeで今執筆中の石
    田先生の小説も宣伝させて下さいっ」
井 上「本当ですかっ!」
三栗屋「もちろんです」
井 上「石田先生っ!100万人に宣伝してもらっ
    たら『これが三成』の10万部を超える
    大ヒット作になるもしれませんよ。い
    や、なりますよ」
石 田「まぁ、そんなに僕のファンだって言うん
    だったら、サインぐらいしてやらなくも
    ないさ」
    石田はペンを取る。
佐 藤「煮込みハンバーグが手作りでもオリジナ
    ルでもなかったことは許してもらえない
    でしょうかね?」
    石田はサインを書きながら答える。
石 田「誰がどう作っても、美味しけりゃそれで
    いいんだよ」
松 川「ありがとうございますっ」
佐 藤「良かったですね、マスター」
松 川「ありがとう、佐藤さん」
    佐藤と松川は手を取り合って喜ぶ。
    石田は三栗屋に本とペンを手渡す。
三栗屋「ありがとうございますっ」
遠 藤「マスター。そろそろコーヒー淹れてもら
    っていいかな?」
松 川「そうでした。すみません」
    松川が急いでカウンターの中へ入る。
遠 藤「佐藤も早く帰らないとカミさんカンカン
    だぞ」
佐 藤「そうだった。じゃ、マスター、また来ま
    す。あ、今度からは肉屋として来ます」
松 川「了解しました」
    佐藤は店を出て行く。
遠 藤「三栗屋くんだっけ?本気ならすぐにでも
    来て欲しいんだけど」
    三栗屋は遠藤の隣に座る。
石 田「さてと。続きを書くか」
    石田はパソコンを置いているテーブルに
    座り直してパソコンを広げる。
井 上「・・・」
    石田を見つめる井上。
    視線に気づく石田。
石 田「何だよ、まだいる気かよ」
井 上「言いましたよね、書き終わるまで見張り
    ますって」
石 田「ったく。・・・仕切り直すか。マスター
    『松川バーグ』1つ」
井 上「あ、僕も。『松川バーグ』追加でっ」
    サッと近くのテーブルに着く井上。
松 川「かしこまりました」


ー完ー
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