純情うさぎとフルムーン
「す、すみません。ありがとうございま……」
引っ張り上げてくれたのは、若い男の子だった。
格好いい? 可愛い?
何にせよ、イケメンということなんだろう。
柔らかそうな髪の色は暗闇でよく分からないのに、その目が真っ赤であることは明白だった。
「ふらふら歩いてると危ないよ。まあ、さ。どうせ“自分は大丈夫~”とか思ってんだろうし、大抵の場合それ事実だけど。でも、このへんにも発情してる獣はいるかもよ。誰でもいいくらい」
「な……よ、余計なお世話です!! 」
カッとなって振り払ったのは図星だからか。
それとも、初対面の男性に「発情」なんて直接的な言葉を使われたからか。それとも――。
「あっそ。じゃ、気をつけて帰って」
少し上にあるだけの真っ赤な目が、何だか泣きそうに見えたからだろうか。
「……はい。失礼します」
忠告してくれたのは、たぶん優しい人だからだ。
でも、お礼は最後まで言えなかった。
これ以上この場にいたら、不躾にその目をまじまじと見つめたままになってしまう。
それはきっと、彼にとって不愉快なことに違いなかった。
「……うさぎさん」
つい、そう呼んでしまいそうになるのも。